「フレイさん、起きてください」
「…」
「フレイさん、朝ですよ」
「ふにゃ…」
「もぅ…仕方がありませんね。えぃ」

ふとんを剥ぎ取る唯。

「ん…?」
「朝ですよ、起きてください」
「…いつの間に寝ちまったんだろ…」
「朝ゴハンの用意ができています、お食べになってください」
「すまないな…」

朝食をとった後、やや気まずいが今後の予定を話し合う。

「ヒューノットに長居しすぎたな」
「ですね」
「次の目的地だが…」
「虻谷の森に行きましょう」
「なっ!?だって、あそこは…」
「きっとあそこにはなにかがあるはずです。行かなければいけない気がするんです」
「唯…」
「だから、虻谷の森に行きましょう」
「…わかった」

次の目的地、虻谷の森。

「フレイさん、一度ユニオンパースに戻りませんか?」
「ユニオンに?」
「はい」
「でも…ここからだと大回りして虻谷の森を通って…時間、かからないか?」
「ヒューノットから船が出ていますから、大丈夫です」
「そうか」

一路港へ。

「おぉ~!唯ちゃん、ひさしぶりだねぇ!」
「お久しぶりです、シフナ船長」
「すっかり大きくキレイになってまぁ…うんうん、成長したんだねぇ」
「ユニオンまで、お願いできますか?」
「そりゃもちろんお安い御用さ!」
「ありがとうございます」

「…なぁ、唯」
「はい?」
「あの船長、どう見たって統治長なんだが…」
「そう見えてもおかしくはありませんよ。だって、兄弟ですから」
「兄弟…あぁ、なるほど。それなら合点がいくな」
「父の旅に付き添っていた頃にお世話になっていたんです」
「…少しなじみがあるだけ、か?」
「はい」
「…すごい…」

シフナ船長を筆頭に、統治専用船「ユニオンクルー」はユニオンパースへと向けて海を突き進む。

「…うぷっ」
「フレイさん?」
「…き…気持ち悪い…」
「酔ってしまいましたか?」
「船なんて…はじめてだからな…」
「横になっていれば少しはラクになりますよ。船室でお休みになっていてください」
「ダメだ…その間にも唯が襲われたら…」
「その先はおっしゃらないでください。フレイさんの身がもちません」
「すまない…休ませてもらう…」

…到着、ユニオンパース。

「フレイさん、起きれますか?」
「微妙…」
「気分が優れるまで安静にしていてくださいね」
「…助かる…」



「ん…もう大丈夫だ」
「よかった…」
「すまなかったな、心配かけて」
「いえ、お気になさらないでください」
「どこに行くんだ?」
「統治長のお屋敷に行きましょう」
「ん、行くか」

…到着、シフネ邸。

「おぉ~!唯ちゃん、会いたかったよ~!」
「ふふ…少し大げさではありませんか?オジ様」
「会いたかったんだも~ん。ささ、早く中へ中へ」
「お邪魔いたします」

応接間に着く。

「さて、ペンダントは見つかったのかな?」
「いや…モンスターに奪われた」
「そうか。それは残念じゃの」
「で…まぁ色々とあって、虻谷の森に行く事になったんだ」
「虻谷の森?あそこにはなにもなかろうて?」
「森のどこかにある遺跡に用があるんだ」
「…あそこに行ってはならん!」
「へ?」
「あ、いや…ジジイの戯言じゃ、気にせんでよい」
「…なにか隠してるな」
「う…」

「唯、先に宿へ行っててくれ」
「でも…」
「俺もすぐに行く」
「わかりました」

唯が席を外し、応接間にはフレイと統治長のみ。

「統治長…いい加減に話してもらおうか」
「…」
「唯がヒーラーである事も、俺がガーディアンである事も、もう分かっているんだ」
「そうか…炎命が…では、お主はやはりガーディアンだったのか…。これ以上は隠す必要もないのじゃな」
「話してくれ、全てを」
「…唯ちゃんはヒーラーの末裔…唯ちゃんはこの世に生きる最後のヒーラーなのじゃ」
「他のヒーラーはどうなったんだ?」
「旧大戦で全滅…」
「唯はどうして生き残った?」
「詳しくは分からぬ。虻谷の森で泣き叫んでいた赤ん坊を見つけ、助け出したのが唯ちゃんの父親じゃ」
「じゃあ…唯の本当の両親は旧大戦で…」
「ワシの友人…唯ちゃんの父親のグルガも今は他界した身じゃがの…」
「さっき、唯は最後に生きるヒーラーと言ったよな?それはどういう事だ?」
「ヒーラーの起源は見当もつかぬ。じゃが、文献によればヒーラーと人間の間にできた子にはヒーラーとしての力はない。よって、ヒーラーとヒーラー同士の子でないとヒーラーの力は受け継がれないのじゃ」
「…炎命から聞いた。ヒーラーの秘めたる力って、一体なんなんだ?」
「元々ヒーラーは強大な力を持った種族じゃった。じゃが一族は破壊や戦を好まず、その力を癒しの力に使った。治癒する者…ヒーラー。その名が付いた理由じゃ」
「その強大な力を悪用しようと付け狙うヤツらが…あいつらか」
「いかにも」
「その力と虻谷の森の遺跡と、なにか関係があるのか?」
「遺跡…ガーデンの事じゃな」
「ガーデン?あの遺跡がガーデンなのか?ガーデンとはなんだ?」
「ヒーラーが住み、暮らし、生活していた場所をガーデンと呼ぶのじゃ」
「そこに…なにかあるのか?」
「炎命のようなヒーラーズウェポンがある事は知っておるじゃろう」
「ん」
「ヒーラーズウェポンは旧大戦時にガーディアンのために作られた、ヒーラーの力を利用した禁忌の武器。あってはならないもの…。ヒーラーの秘めたる力は無限大じゃ…その力は世界を滅ぼせるほど凶悪、強大なのじゃよ」
「世界が滅ぶ…?じゃあ、唯が見た夢は…」
「ガーデンにはヒーラーの力を通常の人間に注ぎ込む特殊な装置『JACK』がある…それすなわちヒーラーの力を人間が扱えるのじゃ。もしそれが悪しき心を持った人間が扱えば…その先はわかるじゃろう」
「あぁ…」
「それを悪用されぬようにガーデンの入り口に結界を張った。その結界を破れるのは『蒼の霊石』のみ」
「だからヤツらはペンダントを狙っていたんだな…」
「そういうことじゃ」
「…どうしてヤツらは俺が出会うまで唯を狙わなかったんだ?」
「ヒーラーの力を抽出できるには一定の年齢に達していないと無理なのじゃ。恐らく23才…皮肉にもお主が唯ちゃんと出会った日、10月8日が唯ちゃんの誕生日だったのじゃ」
「そうだったのか…」
「これで他に話す事はない。これがヒーラーの全てじゃよ」
「ん…よくわかった。ヒーラーとはなにか。ガーデンとはなにか。色々とわかった事が多過ぎて、まだ混乱してる…。でも、これだけはわかってる。俺が唯を守る、それは変わらない」
「うむ…これからは辛くなろうが、唯を頼むぞ、フレイよ」
「もちろんだ」