外は木の葉から溢れる朝日で森中が輝いていた。

降り続いていた雨は止み、雲の間から太陽の光が差し込む。

「唯…帰ろう、家に」

フレイが歩き出そうとすると、先ほどのヘビが現れた。

「出口まで案内してくれるのか…すまない」

ヘビの誘導で森の外を目指す。

(ジイさん…どうしたのかな…影も形もなかったけど…)

…ユニオンパースとは反対方向の森の出口から出る。

「ありがとな、ヘビ」

ヘビは森の奥へと去っていった。

…やがて到着した建物。唯の家だ。

「唯…帰ってきたぞ、アンタの家だ」

ドアを開け、履物を脱ぎ捨て、唯をベッドに降ろす。

「唯…帰ってきた…帰ってきたぞ…」
「…」
「ハラ減ったな…なにか作ってくれよ。そうだ、お茶漬けが食べたい。唯が初めて俺に作ってくれた料理だ」
「…」
「具とかたくさん乗せてさ。大盛りで、ハラいっぱい食べたいんだ」
「…」
「なぁ、唯…料理ができるまで待つから…いつまでも待つからさ……だから…」
「…」
「だから…目を覚ましてくれよぉ…唯………唯ぃ…!」

手を握り締め、声にならない声で唯の名を呼び、悔し涙を流す。

…時は深夜。

「フレイよ…」
「…炎命か…」
「奴は愚かだった。『JACK』はヒーラー一人の力では十分に性能を活かしきれないのだ。ましてや開眼したばかりのヒーラーの力などたかが知れている。世界最強など夢のまた夢だったのだ」
「そうか…」
「…フレイよ、汝はガーディアンだ。ヒーラー一人の犠牲で悲観するには作られていない」
「うるさい!俺はガーディアンなんかじゃなく、一人の人間だ!唯だって、ヒーラーなんかじゃなければ………」
「そこまであのヒーラーを想っていたのか?」
「…」
「蘇らせたいと思うか?」
「当たり前だ…」
「なら、我の指し示した場所へ赴くのだ」
「…できるのか?唯を生き帰らせる事ができるのか?」
「ヒートマウンテンへ向かえ。確実ではないが、可能性はある」
「…どんなに小さな希望だって、俺はそれにすがりたい。行こう、ヒートマウンテンへ」

フレイは唯の身体をおぶり、ヒートマウンテンへと向かった。

何も考えず、無心に、ただひたすらにヒートマウンテンを目指した。

…ヒートマウンテンへの山道の途中、ダーゼン宅の前で足を止めた。

(ジイさん…どこ行ったんだろ…中でイビキかいて寝てたりしてな…)

フレイはまた歩き始める。

稽古場を通り過ぎ、ヒートマウンテンの頂上に到達する。

「炎命、どうすればいい?」
「ヒーラーを仰向けに横たわらせるのだ」
「…それで?」
「我をヒーラーの腹部に突き刺せ」
「なっ…バカな事を言うな!そんな事、できるはずがない!!」
「我がヒーラーの力でできている事は知っているだろう」
「…あぁ」
「このヒーラーは死んでいるのではなく、ヒーラーの力を失っているだけだ」
「じゃあ…」
「我のヒーラーの力をこのヒーラーへ還す…さすれば蘇るはずだ」
「でもそれは…炎命、お前が死ぬって事だよな?」
「左様」
「お前は…それでいいのか?」
「我は旧大戦時代にしか生きる事のできない禁忌の武器…それくらいはわかっている」
「…すまないな」
「さぁ、我をヒーラーに突き立てろ」
「な、なぁ…炎命。突き刺すとなると…その……見苦しいというか…傷とか…」
「ヒーラーズウェポンはヒーラーに対して負の要素を与える事はない」
「そうか…。じゃ、いくぞ…」

フレイは炎命を逆手に持ち、振り上げて構える。

「…じゃあな、炎命」

唯に炎命を突き刺す。その瞬間、炎命が光り輝き、そして砕け散っていった。
だが光はさらに光度を増し、目を開けていられないほど眩しくなった。


その光の中、フレイは誰かに抱きしめられた感覚を覚える。


そして…耳のそばで聞き慣れた声が聞こえた。


「フレイさん…大好き…」