「フレイさん、朝ですよ。起きてください」
「ん…?あれ…俺、いつの間に寝ちまったんだろ…」
「オジ様がペンダントについて情報を見つけてくださったそうです」
「なに?本当か?」
「屋敷で待っている、早く来い。との事です」
「そうか。寝ている場合じゃないな、行こう」

目的地、シフネ邸。

「二人とも、疲れはとれたかな?」
「はい。おかげさまで」
「二部屋用意したんじゃが、一部屋で泊まったそうじゃの?」
「あまり多く部屋を借りてしまうと、オバ様にご迷惑かと思いまして」
「ほっほ。唯ちゃんも相変わらずじゃのぅ」
「?」

「統治長。ペンダントの情報を聞かせてくれ」
「うむ、その事なんじゃが…」
「見つかったのか?」
「…残念じゃが、ユニオンパースにはもうない」
「なっ!?」
「そのペンダントには青い宝石が付いておるか?」
「あぁ」
「スラムの闇商人がユニオンプールのほとりで偶然拾って、売りさばいてしまったそうじゃ」
「くっ…」
「じゃがな、購入者の情報も得られたぞぃ」
「購入者?」
「西のイムカの漁師が購入したそうじゃ」
「西の…イムカ?」
「小さな小さな漁師の町じゃ」
「そこに行けばなんとかなるんだな?」
「確証はないがの」
「それだけの情報が得られれば十分だ、感謝する」

次の目的地、イムカ。ユニオンパースの半分にも満たない小さな漁師の町。

フレイと唯の両名は、一時的に唯の家に戻ることにした。
北門にて、唯がシフネ統治長に別れの挨拶をする。

「お世話になりました」
「いいんじゃよ。唯ちゃんはあいつの愛娘じゃ、これくらいの事はさせておくれ」
「ありがとうございます、オジ様」

別れの挨拶を済ませ、一路唯の家を目指して出発する。

(ひっかかるな、俺に剣を渡した時の統治長の切羽詰まったような感じ…)
「フレイさん?」
(俺がただ単に唯を守る…それ以外になにかあるっていうのか?)
「フレイさん…」
(それにこの剣は…なにがなんだっていうんだ?)
「フレイさん!」
「…あ?」
「どうなさったんですか?難しい顔をなさって」
「いや、なんでもないんだ」
「そうですか…」
(ん、俺の思い過ごしかもしれないな)

虻谷の森、侵入。

「昨日よりも少し薄暗いな…」
「お天気があまりよくありませんから」
「そうならいいんだが…この不穏な空気はなんだ?」

ガサガサ。

「きゃあっ!」

フレイの背中にしがみつく唯。

「どうした?モンスターか!?」
「ヘヘ、ヘ、ヘビ…」
「…ヘビ?」

緑の胴長の生き物は森の奥へと去っていった。

「…もう行ったみたいだぞ」
「ホント…ですか?」
「あぁ」
「よかった……あ。ご、ごめんなさい」

唯はしがみついていた手を離す。顔をやや赤らめている。

「ヘビ、苦手なのか?」
「…はい」
「意外だな、ヘビが苦手だなんて」
「あぅ…」
「ま、誰しも苦手な物はある。ないって方がおかしいからな」
「そう言っていただけると…嬉しいです」



ガサガサ。

「きゃあっ!」
「ん?またヘビか?」
「ち…違います…あれ…」
「あれ?」

唯の指差す方向に向くと、そこには身の丈2mはあろうかという巨大な人型の獣が立っていた。

「くっ…、出やがったな!」

唯の身体が震えている。平常心を保とうとしているが、やはり恐怖心は押し殺せないようだ。

「唯、下がってるんだ」
「フレイさん…」
「大丈夫だ、俺が守ってやる」
「…気をつけて下さい」
「あぁ」

巨人が大振りのパンチをフレイに浴びせる。

「~っと、危ない危ない」
「ちゆノショウジョ…ワタセ…」
「治癒の少女…渡せ?」

巨人は再度フレイにパンチを浴びせる。

「っとっと。なんの事だかわからんが、唯には指一本触れさせないぞ」



苦戦の末、フレイの一閃でモンスターは倒れた。

「ふぅ~、手強かったな」
「フレイさん…」
「唯、ケガはないか?」
「わたしよりも、フレイさんが…」

先ほどの戦闘でフレイは油断し、敵の攻撃を一度受けてしまったのだ。

「これくらいのケガ、どうってこと…いたたた」
「無茶してはいけません、じっとしていてください」

唯がフレイの傷口に手を当てた。その手からは淡い光が放たれている。

「なんだ…この光は…?」
「…」

唯が精神を集中すると、フレイのケガがだんだんと癒えていった。

「…もう大丈夫ですね」
「唯、その力は一体…?」
「これは…いつ知れずしてわたしの身に降り注いだ、不思議な治癒の能力です…」
「治癒の…能力?」
「オジ様には使わないように言われていたのですが、仕方がありません」
「その能力が身に付いたキッカケとか、なにか心当たりは?」
「わかりません…気が付いたら、この力がわたしの身体にあったんです」
「気が付いたら?」
「自分が赤ちゃんの時のこと、覚えていますか?」
「いや…」
「それと同じようなものです」
「ん…治癒能力、か」
「この力は内緒にしておいてくださいね」
「もちろんだ」

(さっきのバケモノが言っていた『治癒の少女』が唯だとしたら、統治長はこの事を案じて俺に唯の護衛を…?
だとしても、なぜ俺が?統治長自らが唯に護衛を付ければいいはずだ。くそっ!一体なにがなんだか…)

「フレイさん?」
「…ん?」
「ユニオンパースを出てからのフレイさん、少し変です」
「そうか?」
「とても怖い顔で、思い詰めたかのように…」
「…すまない」
「あまり考え込まない方がいいですよ」
「あぁ…」

(そうだよな…別に考え込む必要もないんだ。統治長の言葉の謎とか、唯が不思議な治癒能力を持ってたりするけど、そんなのは関係ない。俺が唯を守る、ただそれだけなんだよな)

「フレイさんの剣術、お強いですね」
「この剣術は、前に世話になってたジイさんから教えてもらったんだ」
「剣術の名前は?」
「さぁな。ジイさんは我流とか言ってたけど」
「もしかしたら、とても高名な剣術の師範さんかもしれませんね」
「あのジイさんが?…そうは思えないな」

(それに…強いのは剣術だけじゃなく、この魔剣だ。まるで生き物のような、不思議な感覚さえ覚える)

…到着、唯宅。

「明日に備えて、今日はゆっくりと休みましょう」
「すまないな、ペンダント探しにここまで付き合わせてしまって」
「お気になさらないでください」
「…優しいんだな、アンタは」

…時は深夜。昨晩と同じく、唯がベランダで星空を眺めている。

「フレイさん」
「なんだ?」
「1つ、お聞きしてもいいですか?」
「2つでも3つでも構わないぞ」
「ペンダントが見つかったら、どうなさるんですか?」
「それはもちろん………」

(もちろん、なんだ?その先なんて考えてないぞ?)

「?」
「俺は組織に追われている、俺のそばにいたら唯が危険だ。だが唯も何者かに追われている、どのみち唯には災厄が降り注ぐ。だから俺が唯を守る。む…どうすれば両立できるんだ…。少し考えさせてくれ…」

(考えるとか言ったけど、どうするんだ?なにか名案でもあるのか?妙案でもあるのか?)

「あの…」
「ん?」
「提案があります」
「なんだ?」
「わたしを連れて逃げてください」
「…は?」
「わたしを連れて逃げればその組織からも逃げれますし、わたしも守れますよね?」
「確かにいい案かもしれないが…唯はそれでいいのか?」
「冒険とか、旅とか、してみたいんです」
「そんな生易しいもんじゃない!命の保証だってできないんだ!」
「大丈夫です、フレイさんが守ってくれますから」
「なっ…」

やや照れるフレイ。

「…仕方がない、それで行こう」
「ありがとうございます」

(逃げるったって、延々と逃げ続けるわけにはいかない。いつかは組織と、唯を追うヤツらの大元を叩かなければキリがない。それまでは唯を守りながらのペンダント探し、だな)