じりりりりりりり…カチッ。

目覚まし時計の豪快な音に起きた。目覚ましなんて置いた覚えは…
そうか、千夏が置いてったのか。ここに住むんだからルールは守ろうか。
今は…10時か。毎日10時にまでに起きろってのか、オレにはキツイな。
顔を洗い、部屋中を探してみるが千夏の姿はない。
テーブルに目をやるとメモが置いてあった。

(今日からわたしは学校です。ゴハンはカップラーメンでも食べててください。昼寝しちゃダメだよ!)

そういえば今日は平日、学生は学校だな。学校なんてよく行けたもんだ。
…で、オレはどうしたらいいのか。これがず~っと続くわけだ、ヒマしているのは地獄だ。
バイトでも探そうか。このままタダでどっかり住むのもシャクだし、プー太郎じゃバツが悪い。
そう思って出掛けようとしたオレだが、ある重大な事実が判明した。

「家のカギ持ってねぇよ!」

このご時世、カギをかけずに出掛けるなんて言語道断。
となると一切の外出ができない。千夏が帰るまでヒマ地獄だな。
途方に暮れていると、さっきのメモが目に入った。よく見ると下になにか書いてある。

(p.s 合い鍵を渡しておきます。ポケットに入れておいたからね)

ゴソゴソ…あった。千夏が神様に思えた(大げさ)
しかし、さらに重大な事実が判明する。

「金持ってねぇよ!」

そう、オレは一銭も持っていない。旅の途中ですっかり路銀を使い果たしたからだ。
無一文で外出するのは気がひける。まぁ仕方ないか…と思ったその時、
さっきのメモがまた目に入った。先ほどの文にまだ続きがあるようだ。

(それと、お金がないと困るだろうから反対のポケットに入れておきました。無駄遣いしちゃダメだよ?)

この瞬間、千夏がゼウス神に思えた(大げさ)
しかも一万円という太っ腹である。どこからそんなに金が、というのはこの際気にしない。

さくっと準備を整え金も合い鍵も持ち、いざバイト探しへ。

とりあえず近くのファーストフード店を当たってみる…ぐはっ。
次はテキトーにレストランを当たってみる…ぐはっ。
そして次、次、次…全滅である。面接しないとダメなんだと。
面接をしないとダメとなると、やはりその手の情報誌を読むしかないか。
ささっと本屋へ出向く。雑誌やマンガ、エロ本には興味は一切なし。
(ちなみに、シブヤ一帯の地形は覚えているので迷う事はない)
バイト情報誌を読んでみる…が、ほとんどのトコロの条件が高校卒以上である。
オレはバッチリ中卒なのであきらめて本屋をでる。すると、空はすっかり赤みを帯びていた。

そそくさと千夏の家に帰ったが、まだ千夏は帰っていないようだ。
ヒマなので本屋でこっそり買ってきたマンガ「レッカマン」…なかなかおもしろい。
自分でも不思議に思うほど熱中して読んでいると、千夏が帰ってきた。

「ただいま~」
「おかえりんぐ」
「どこか行ってたの?」
「まぁ、な」
「ふ~ん」
「…ん?千夏の大学ってどこなんだ?」
「ふぇ?東大だよ?」
「………すまん、もう1回」
「だから、東京大学だってば」

かなりビビった。千夏ってそんなにトンガリ帽子だったのか。
確かに小学生の頃から成績は良かったが…スゴイな。

「で、学部はどこなんだ?」
「医学部だよ」
「医学部?医学なんかに興味あったのか?」
「わたしのお父さん、病気で寝たきりなの…」
「だからってなんで千夏が医学部なんだ?」
「…治らない病気なの。現代医学では治らない病気」
「そうなのか…」
「だからわたしが医学部に入って、勉強して、絶対に治してあげるの」
「大変なんだな。親父のためか、ガンバれよ」
「うん」
「…でさ、ヤボなこと聞くけど」
「なに?」
「合コンとかしないのか?」
「全然しないよ。誘われたりはするけど、全部断ってるの」
「なんでだ?大学生ったら、合コンの宝庫だろ」
「あんまり好きじゃないんだ…それに…」
「?」
「ん~ん…なんでもない。それよりゴハンにしよ!もうお腹ペコペコ~」
「そうだな、メシにすっか」

さっきの言葉が気にはなったが、ハラが減っていたのでとりあえず聞かないことにした。

「できたよ~!今日は豪華なエビピラフ!」

『豪華』と銘打ってはいるがもちろん冷凍食品。おいしいのでガッツいて食べた。

食事中、ある事に気が付いた。千夏の左手の甲にある傷跡…。
まるでなにかで切ったような傷…昔はあんな傷はなかったよな。

「千夏、その左手の傷」
「あっ!そういえば、あさってキートの誕生日だよね?」
「ん?ああ、忘れてた…よく覚えてたな」

オレの言葉を上から消すように、コロっと話が変わった。そう、7月18日はオレの年食いデーである。

「キート、今年でハタチだよね?」
「あぁ」
「晴れて大人になる日なんだからさ、パ~っとやろうよ!」
「な…なにを?」
「誕生日パーティー♪」
「マジで?」
「うん!」
「や…これ以上世話になるのはなぁ…」
「キートはもうここの住人なんだから、気にしなくてイイの!ね?」
「(なんだか丸め込まれた気もするが)しょうがない、パーティーな」
「わ~い!ケーキ、ケーキ、おっきぃケーキ♪」

それにしても騒がしい子だよなぁ…かわいいのに、なんでカレシがいないのか。
改めて不思議に思ってしまった。オレなんて超究極見分不相応だと思うんだけど。

食事を終え、レッカマンの続きを読んでいたオレはいつの間にか寝てしまったらしい。
そこに千夏が起こしにきた。

「な…なんだよぉ………眠い…」
「ウノやろ、ウノ♪」
「…寝る」
「ダ~メ!寝る前にウノはウチのルールなの!」

『ルール』。その言葉には逆らえないオレの立場を千夏はちゃっかりわかっているのだろうか。
結局 遅くまでウノに付き合わされ、23時にはダウンした。