| ザ・コンビニ 12 「すいません」 「ぅわっ」 ビックリした。 目の前に客が立っていた。 目の前と言っても控え室ではなくて、レジに椅子を持ち込んで売り物の漫画雑誌を盗み読みしていたのだけれど。 監視カメラは録画されているもののオーナーは全くチェックしていないことがわかったので、今度からは堂々と盗み読みができるようになって心底嬉しい。給料日くらい嬉しい。 が、漫画に熱中してしまい、来客にこれっぽっちも気付かなかったみたいで…。 ピンポン、鳴った? …まさか、泥棒!? だとしたら、わざわざ声なんかかけずにあの手この手で脅してくるか。 ストッキングかぶってないし、フルヘルもしてないし、どう見たって普通の若い男の人。 「あっ、はい、なんでしょう?」 「タバコの、17番ふたつ」 言われた番号からタバコを二つ取り出して、バーコードを読み取っ― ちょっと待った。 さっきから思ってはいたのだけれど、自分のシワを増やすような哀れな発言はしたくなかったのだけれど…。 私の歳から見ても、この男の人、否、男の子は若すぎる。 未成年かもしれない、と疑うのは別にお店の信用問題に限らず、というかこっちの方が比重は高いけれど、ヒューマンウォッチャー的に大いに気になるからである。 だって、タバコもお酒もしない私にとって成人の飲酒・喫煙すら比較的非平凡だというのに、法律に違反する未成年での喫煙だなんて、エアーズロックをフリークライミングしているみたいでワクワクしない? そもそもタバコを吸う理由が私にはわからないし、吸いたいのであれば堂々と成人してから吸えばいいのに。 もちろん私はタバコを吸いたいとは思わないし、それ以前にタバコを買うお金が…。 だから、そんな他人のアブノーマルな行動はとっても新鮮。 法律を守れ、だなんて偉そうなことを言うつもりはないけれど、人間観察の観点で。 「あのー…。失礼ですけど、おいくつですか?」 「え」 「よろしければ、免許証とか」 「あ、今ちょっと、ないッスね…」 「じゃあ、保険証とか」 「いや自分、仕事してないんで…」 「でしたら何か、年齢を確認できるものってあります?」 「ちょっと、手元には…」 よし、もうちょっと踏み込んでみよ。 「もしかして…、未成年だったり?」 「あー、いや…」 バツ悪そうに後頭部をポリポリと掻く男性、やっぱり図星みたい。 「残念ですけど、未成年の方にはお売りできないことになってまして…」 「そこをなんとか…」 「こちらこそ、そこをなんとか…」 「今吸わないと俺、死んじゃうんスよ」 「私が責任を持って救急車をお呼びしますからっ」 「マジお願いしますよぉ〜おねぇさぁ〜ん!」 お、お姉さん? ねーちゃんだなんて投げやりに呼ばれるのと違って、なんて素敵な響きなんだろう。 ちょっとだけタバコを売ってあげてもいいような気がした。 もちろんそんな私情を挟んではいけないのだけれど。 なんて言いながら、思いっきり私情を挟んで尋問しているわけだけれども。 「どうしてそんなに吸いたいんですか?」 「中学からまいんち吸ってるから」 中学から毎日!? 「一日何本くらい?」 「えーっと…、だいたい一箱」 一箱は確か20本。 中学から毎日20本。 本当に毎日欠かさず吸っていたとしたら、年に7300本のもタバコを吸っていることになる。 な、なんてこったい…。 私から見たら、気球で大西洋を横断するよか数倍大冒険のように思える。 きっと、肝臓とかもうボロボロで肺も真っ黒なんだろうな…。 でも若いだけあってオシャレには気を遣っているみたい、香水でタバコのニオイ消してるし。 「そんなに吸って、身体、大丈夫?」 「別に、俺早死にしますからね」 死ぬだなんて、軽々しく口にしちゃいけないのに。 お笑い芸人や近頃の若い人たちは簡単に死ねなんて言うけど、ひどいと思う。 せっかくこの世に生まれてきたんだから、平凡でもいいから生きなきゃいけない、いつからかそう思うようになった。 かといって生や死に関する哲学があるわけでもないし、大学で専攻したわけでも宗教に入っているわけでもなくて、人としてそうあるのが普通なんじゃないかと思う。 たぶん、平凡な考えなんだろうと思うけれど。 産んで、育ててもらったんだから、生きる。 理屈とかじゃなくて。 だから私は、こうしてバイトをして、明日生きるためのご飯を買うお金を稼いでいるわけで。 なんか、もったいない。 タバコなんかで人生を切り詰めてしまうなんて、もったいなさすぎる。 「…わかりました、お売りします」 「おぉ!」 「でも残念ですが、こちらのタバコは全て売約済みとなってまして、数年先まで予約がいっぱいなんです。そうですねぇ…、だいたいお客様がハタチになられた頃でしたら、在庫にも余裕が出てきますので」 「うわ、ひっでぇ〜」 ンだよふざけんなよ、みたいなイライラ顔をしているけれど、売れない物は売れないんだから仕方がない。 「あ、もう予約は取り消せませんから、必ず取りに来てください」 「はい?」 「―ちゃんと生きて、取りに来てくださいね」 私の言葉にあっけらかんとした表情の男の子は、少しして、 「わかった、おねぇさんの熱意に負けたよ。諦める」 「ご協力感謝します」 「諦めて、他で買うことにするわ」 あぁ、やっぱりそうなるのねぇ〜ん…。 Back | ザ・コンビニ 13 |