| ザ・コンビニ 25 ピンポーン。 今風の、ちょっとファンキーな格好をした小学校高学年くらいの男の子がご来店。 少し髪が茶色いけど、今時分特に珍しいものではない。 私は平凡なので髪は黒のままだし染めようと思ったこともないし、染髪剤高すぎるし…。 学校で注意されたりしないのかな。 いくら小学校とはいえ、生徒が髪を染めていたら怒らないわけにはいかないだろう。 って、小学生と確定したわけではないけれど。 中学生であればやんちゃな精神が芽生えて自主的に染める人もいるだろうけれど、小学生の段階で自ら染めようと思う子はそうそういないと思う。 たぶん、親の好みで染めているとか本人の意思外の結果であって、悪気はないんだと思う。 髪を染めている=悪ではないのだし、あくまで校則で禁止されているだけで犯罪を犯したのでもないのだから、一番かわいそうなのは染めさせられている当の本人なんじゃないだろうか。 髪を染めていることでいじめに遭ったりでもしたら。 ましてや親直々に首を突っ込んで抗議なんぞしてしまった暁には、とばっちりを食うのは子供なのだし。 染髪という行為そのものを全く自然のものとしてインプットされてしまっていたとしたら、混乱を招きはしないだろうか。 第一、成長期に髪なんか染めたら痛んでしょうがない。 大人になったらいくらでも染めていいと思うけれど、小さい頃にやったって何もいいことはないと思う。 一方的にかわいそうだと思う私も失礼かもだけれど。 本人メチャクチャ気に入っていて、茶髪でなければ学校行きたくない、なんて言うのだろうか。 …ちょっとかわいいかも。 男の子はまっすぐ玩具コーナーに向かい、カードゲームのパックを手に取った。 少しいんぐりもんぐりしたかと思えばそれを別の所に置き、次のパックを取ってまたいんぐりもんぐり。 いわゆる一つの「サーチ」行為。 ミテクレではわからないパックの中身を、外から触診することでカード自体の凹凸を調べ中身を推測するという荒技であり、禁止行為でもある。 でも、私は注意しない。 だって、なけなしのお小遣いでせっかく買うのだから、どうせなら良い物が手に入った方が嬉しいじゃない! サーチ行為をしたところでウチのお店はカードゲーム専門店ではないのだから莫大な被害を被るでもないし、それぐらい許してあげてもいいと思う。 ただ、こういうことがきっかけで万引きにまで発展しまうこともないとは言い切れないので推奨はしないけれど。 なにより、パックを手に持つ子供のワクワクした顔が― あれ? 全然ワクワクしていない。 むしろ、トコトンにまで無愛想。 まるで、ちっともおもしろくない仕事をさせられているかのような。 それが本人の意思でないかのような。 何故だか少し、心が痛む。 男の子はレジに来て、カウンターにカードゲーム五パックを置いた。 一つ二百円だから、千円。 今の子供はお金持ちだから、これぐらいどうってことないのだろうけれど。 うぅ…。 男の子はお店を出るとすぐに駐車場の車止めに座り込んでパックを開封し始めた。 慣れた手付きで開け、中身を確認し終えると、カードを全てポイと捨てて次のパックを手に取った。 また、ポイ。 次もまた、ポイ。 五パック全てを開封し終えた頃には、男の子の足元はカードの絨毯が出来上がっていた。 胸の痛みとともに、わずかな怒りを覚える。 なんてもったいないことをするんだろう。 そんなことをするのなら、最初から買わなければいいのに。 毎日を本当の意味で必死に生きようとする発展途上国の子供たちは、わずかな食べかすをすら奪い合うというのに。 私だって、廃棄の食べ物はこっそり持ち帰っているし。 それ一枚に価値はなくても、まとめて売れば多少のお金になるのではないか。 そう考えると、本当にもったいない。 他人様の物なのだから捨てようが燃やそうが自由だけれど、あんまりだ。 男の子はイライラ顔で店内に戻ってきて、またカードゲームのサーチ行為を始めた。 うーん…。 さすがに注意した方がいいのかな。 っていうか、注意しなくちゃいけない気がする。 「ねぇ、ボク?」 カウンターから少し身を乗り出して言う。 男の子はおっかない表情で私の方を向いた。 「そうやって触ってるとね、中のカードが傷付いちゃうから、」 「うっさい」 なっ…! 「金払うんだから、選ぶ権利あるだろ」 その道理は通るケースと通らないケースがあるけれど。 今の正直な気持ちは、腹立たしさよりも、近頃の小学生の荒れ様に対する驚きの方が強い。 敬語を使わないのはさておき、発せられる単語の一つ一つ、もとい語彙そのものが、私たちの世代とはかけ離れているような気がした。 私の推測眼が正しければこの子は小学六年生で十二歳、大学生の私とおおよそ十年のジェネレーションギャップがあると考える。 確かに十年という差は大きいけれど、言葉遣いまでもがここまで変わってしまうものなんだろうか。 この子だけをものさしに見るのは不公平だけれど、私にとってはリアルタイムを生きる貴重な体現者の一人だし。 私たちの頃だっていわゆる悪ガキみたいな子供はいたけれど、目付きから声色から徹底的に相手を見下すような態度をとる人は少なくとも私の周りにはいなかった。 悪さばかりで素行の良くない学生たちだって、超えてはいけない一線は心得ていたし、義理人情に厚い面もあった。 それが今や、心まで荒んでいるみたい。 時代の移り変わりっていうのは、本当に恐ろしい。 技術が進歩すれば生活は変わるし、言葉遣いだって、お化粧だって、流行だって、価値観だって変わってくる。 ただ、その流れが必ずしも正しいとは限らない。 時には間違った時代推移もある。 それを、この子に教えてあげなきゃいけないと思う。 「でも、買わないのもいっぱい触っちゃってるよね?」 「―じゃあ何? オレ買っちゃいけないの?」 うわ…。 むかつく…。 「そ、そうじゃないけど、」 「じゃあ黙ってて」 イライライライラ…。 結構長くコンビニのバイトをしているけれど、こんな態度の悪いお子様は初めて会った。 あぁもう、この子が客じゃなかったら強烈な制裁を差し上げたい…! 「あのね、どれを選んでもそれは自由だけど、買うつもりのない物を傷付けちゃうと、それはお店の物を傷付けてるわけだから―」 「―じゃあ何? ペットボトル買う時にドア開けて、冷蔵庫の温度上がったから弁償して下さいとか言うの?」 …はい? さっきから、全然論点がズレてるじゃん! 「いや、それはしょうがないと思うけど、」 「じゃあ商品選びで付く傷だってしょうがないよね」 くっ…。 大人が、子供に口で負かされるなんて…。 この子の言うことは思いっ切り間違っているのだけれど、どうしてかうまく言いくるめられている気がする。 腹立たしいけれど、何故だか言い返せない。 弱った…。 最近の子供って、なんでこんなに強いのさ! …。 そうだ。 私は大人なんだから、大人らしい所を見せなくちゃ。 口で言ってもわからない子には、行動で示してあげなくちゃ。 口で勝てないから行動で、なんて大人のエゴ丸出しだけれど。 レジを出て、構わずサーチ行為を続ける男の子に近付く。 「―な、なんだよっ」 さっきまでの威勢が打って変わって怯みに変わった。でもここでヨシと引いてはいけない。 男の子に詰め寄って、恐らく購入予定であろうパックを蓄え持つ左手の手首をガシッと掴む。 こういう子は幼く扱われることを嫌うだろうから、 「お客様ッ」 言葉でのカウンターはすぐに返ってきたけれど、行動でのカウンターは不発のようだ。 「…わかったよ」 思いの外素直に、男の子は蓄えていたパックをフックに戻した。 さっきまではあんなにこ憎たらしかったのに、男の子の態度が一変したことで生まれたギャップが不謹慎にもちょっぴりかわいく思えてしまった。 しかも、仮にもお客様に手を出してしまったのだから、ふんぞり返っているのは店員である前に人としてどうなんだろう、とも思って、 「ありがとっ」 いつものクセで愛想付きの感謝が出てしまったけれど、いいよね? …あれ。 マズかったかな。 心なしか、男の子の頬が赤くなっているような…。 「―お、お邪魔しましたっ!」 突然男の子は私を押しのけて駆け出し、退店していってしまった。 うーん…。 もしかして…、思春期? Back | ザ・コンビニ 26 |