| ザ・コンビニ 4 ピンポーン。 どうもホストです、と言わんばかりにキメキメでスカした男性三人組が、真夜中だというのにハイテンションでご来店。 「今日はオレがおごっちゃうよー!」 「マジっすか! あざーす!」 「ゴチんなりやーす!」 わぁ、まるで絵に描いたような人たちだ。 おごっちゃうよさん自らカゴを持ち、まずお酒コーナーでビールやらチューハイやらをドカドカと入れ、続いておつまみコーナーでもドカドカと、さらにお菓子コーナーで袋菓子をドカドカとカゴに入れた。私の財政状況的にはとてもじゃないけどこんな大人買いはできません。まぁ、ホストの方々にとってはガムを買うような感覚なんだろうけれど。 大量の商品を精算していると、 「あ、ねーちゃん、この唐揚げもちょーだい」 ね、ねーちゃん…。 個人的な感覚ではあるけれど、二十代後半っぽく言われてプチショック。今度から名札に歳書いちゃおうかな…。 唐揚げを含めた精算が終わり、大きな袋を恐らく後輩であろう一人に持たせ、お店を出た。 これから誰かの家でドンパチするのかな、と思いきや、駐車場の車止めに三人とも座り込んだ。 「んじゃまーとりあえず、真雅(しんが)さんのナンバーワンを祝って、」 「「「カンパーイ!」」」 こぼれるのも構わず、三人は思いっきりビール缶をぶつけ合った。 この状況じゃあ、近所迷惑を注意するのも悪いよねぇ。 「いっやー一時はどうなるかと思いましたけど、さすが真雅さんッスね!」 「なぁ〜に、オレの実力はまだまだよ」 「そんな謙遜しないでくださいよ! 真雅さんオレらの目標なんスから!」 「…オレさ、ぜってー言わねぇと思ってたけど、感極まっちゃったから言っちゃうわ。お前らみたいな後輩がついてきてくれて、マジ感謝してる。お前らがいなきゃ、今のオレはねぇと思うわ。ホントお前ら、最高だぜッ!」 真雅さんを挟んでいた後輩二人の肩を、持っていたビールがこぼれることも構わずバシバシと叩いた。おかげで右の後輩はビールを浴びまくったけれど、憧れの先輩の言葉が五臓六腑に染み渡っているようで、心ここに在らずといった感じ。 「真雅さん、オレ、いつか真雅さんみたいなすっげーホストになれるよう、がんばりますっ!」 「オレも、真雅さんみたいなメッチャ最高なナンバーワンホスト目指して、がんばりますっ!」 「バカだなぁ、オレのマネじゃあ意味ないんだよ。お前らにだって個性はあるんだしよ、そこ活かしまくってな、"オレみたい"じゃなくて"オレを超える"くらいのホスト野郎になってくれ」 「そんな、真雅さんを超えるなんてムリっすよ!」 「そんぐらいの意気込みがなきゃオレにもなれねーっつーの。いいか、オレだっていつかはこの仕事辞めて、フッツーのサラリーになるかもしんねぇ、またこっち系のことやるかもしんねぇ。でもどっちにしたってウチのナンバーワンの座は空くわけよ。その座を継ぐのは、お前らどっちかだってオレは信じてる。売り上げがナンボの世界だろ、オレがチーフに何言ったって見んのは数字だ。だから、実力で勝ち上がれ、お前らならぜってーになれる! オレが保証すんぜ!」 「真雅さん…!」 「マジ、泣きそうッス!」 すごい話になってるみたいだけれど、ホストの世界って、なんだかプロ野球みたい…。 ホストそのものには多少の興味はある。人間観察的にも、一女としても、一度は行ってみたい。 しかし、たかだか素敵な男性と楽しくお喋りしてお酒を飲むだけで、どこをどうしてあんなに高いんだろうか、私の一日のバイト代ではコップ一杯の水も飲めないと思う。 羽振りぶりぶりの女性たちは彼氏でもないのにとんでもないお金を貢いでいるそうだし、私だったら彼氏にだって絶対に貢いでなんかやらない、だって私が生活できなくなるから。 根本から次元が違う世界なんだと思う。流れるお金の桁も違えば、価値観から生活観から、何から何まで違うのだと思う。 否、思っていた。 彼らだって普通にコンビニを利用するし、思想的なそれだって極端に言ってしまえば野球部みたいなもので、すごく人間的。 実力があれば認められて、富と名声が手に入る。 実力がなければ、切られる。 大昔から、人はそうやって争ってきた。 私は争い事は苦手だから、というか平坦人生のおかげで誰と争うこともなかったけれど、争わなければ今日のご飯に在り付けなくなる人たちがいることも、忘れちゃいけない。 そうか、争いか。 私の争いといえば、スーパーのタイムサービスでオバタリアンたちと…。 「あっ、し、真雅さん」 お。 何か動きがあったようだ。 後輩の一人が視線を向ける先には、どうもホストです、なスーツでロン毛の男性がタバコを吹かしながらやってきた。三人組の存在には気付いていたようで、特にこちらを見るでもなくお店に入った。 「悔しそうッスね」 後輩の一人が言った。 「実力社会だから…な」 真雅さんもタバコに火を付けた。 ロン毛さんはというと、雑誌コーナーで車関係の雑誌を軽く立ち読みしてから、ペットボトルのミネラルウォーターと缶コーヒーとカロリーメイトをカウンターに置いた。 「あー…。25番と13番」 カウンターに陳列されているタバコの銘柄番号のことで、言われた番号の銘柄を出してカウンターに置いた。 でも普通、タバコの銘柄は好みの味によって決まり、一銘柄だけを複数買っていく、というのが常なのだけれど…。 お店を出たロン毛さんは、すぐそばで座り込んでいる三人組、特に真ん中の真雅さんを見ながら、買ったばかりのタバコ(25番)の封を開けて火を付けた。 後輩二人は怖くて目線を合わせられない様子だけど、真雅さんは見られているから見ているといった感じでロン毛さんと目線を合わせていた。なんか怖いな、ケンカとか始めたらヤだな…。 でも、そんな心配は杞憂に終わるみたいで。 ロン毛さんが動き、真雅さんから少し距離を置いた所で立ち止まると、袋から13番のタバコを取り出して真雅さんに放り投げた。 少し驚いたけれどしっかりと受け取った真雅さんに、ロン毛さんは目をじっと見据えて言う。 「良かったな、ナンバーワン」 皮肉っぽさがどこにもない、素直な言葉だった。 「おぅ。サンキュ」 真雅さんは、愛煙銘柄のタバコとお祝いの言葉に礼を表した。 「言うの忘れてたけど、俺今日で辞めっから」 ロン毛さんの言葉に、先に驚いたのは後輩の一人だった。 「えっ!? なんでッスか!?」 「真雅の追い上げもすごいしよー。身体の方も色々キちゃってるし、そろそろ潮かなって」 「でも、廻戸(まわりど)さんがいなくなったら、」 「真雅がいんべ」 後輩が何も言えなくなって、真雅さんと廻戸さんそれぞれがタバコを一吹かしした。 「真雅」 少しの間。 「がんばれよ」 「お前もな」 言って、真雅さんは袋から適当に掴んだ缶チューハイを廻戸さんに投げ渡した。 「アルコールやめろって医者に言われてンだけどな〜…」 「最後だろ、気にすんなよッ」 で、結局は乾杯してしまった。 こういう、ドラマのようでドラマでない、体裁もなければ建前もない、リアルな人と人との掛け合いを目の当たりにすると、ヒューマンウォッチャー的にはおもしろいけれど、人として、時に寂しく感じてしまうこともある。 真雅さんと廻戸さん、それから後輩の人たちみたいに、心から語り合える友達が私にはいない。 平凡な人生を送ってきた私だから、親友と呼べる友達に巡り合うことはなかった。恐らくこれからもない。たぶん、親友にまで至ってしまうと平凡ではない出来事が起きてしまうから。 特に意識したことはなかったけれど、彼らを見ていると、どうしても考えてしまう私がいた。 はぁ…。 えぇい、そんなことを考えている暇はない。 それよりも、給料日までにどうやって生き延びるかを考えないと…! Back | ザ・コンビニ 5 |