ピンポーン。
 どうもバンドやってます、と言わんばかりにジャラジャラした茶髪の男性がギターケースを背負ってやってきた。
 男性は店内を回ることもせずまっすぐレジに来て、レジ側の壁の掲示物やらを一通り見回してから私に声をかけてきた。
 「さっせん」
 「はい」
 「バイアグラください」
 「…へ?」
 「いや、だから、バイアグラ」
 何を言っているんだろう。
 っていうか、本気で言ってるのかな。
 「バイアグラ…と、言いますと?」
 「なに、知らないの? ビンビンになる薬」
 こっちが恥ずかしくなるくらい、何の躊躇いもなく女性店員に向かってアレな単語を口にする男性。
 唖然としてしまうというか、常識を疑ってしまう…けれども、ヒューマンウォッチャー的には…。
 「申し訳ないんですけど、当店ではお薬は扱っていませんので…」
 「いやいや、あるっしょ」
 「ないです」
 「ダチが買ったって言ってたし」
 「そんなはずは…」
 「いや、でも実物見たし」
 「はぁ…。少なくとも、コンビニで買った物ではないと思いますけど…」
 「なんで?」
 「コンビニで扱えるお薬には制限があって、バイアグラとか、処方が必要なお薬はダメなんです」
 「…マジで?」
 「マジです」
 男性は"やっべ"っていう顔をして、それから物凄く怒った顔になった。
 「マジごめん、今からダチぶっ殺してくるから」
 「あ、いえ、」
 男性はあっという間にお店を走り去ってしまった。
 罠にかけた友達も悪いとは思うけれど…。
 真に受ける方も…。