ふと気付くと、時計は2時を回っていた。
 次の弁当の便は交代後だし、荷の入替えは終わってるし、漫画誌はぜんぶ読んだし、廃棄も食べ……あわわわ。
 外はしとしととキレの悪い小雨が振り続き、うすぼんやりと霧もかかっている。
 こんな日はまずお客は来ない。一眠りしてもいいかな……
 「あのお」
 「ぅふはひぃ!?」
 いつのまにかレジカウンターの前に人が立っていた。
 「えは、ひ、らっしゃいませ!」
 いかん、動揺するな驚くな私、それは失礼だぞ私。
 相手は年の頃20代も後半、黒いトレンチコートに丸眼鏡、角刈り気味の線の細い男性。
 駄菓子が山ほど入ったカゴをレジカウンターの上に乗せる。
 ぴ、かたかた、ぴ、かたかた、ぴ、かたかた、ぴ、かたかた…
 無数の商品をレジに通していく。うちの店ってこんなに多くの種類の駄菓子を揃えていたのか、と、おかしな感心をしてしまう。
 なんか補充した記憶が無いけど、これ賞味期限とか大丈夫なのかな?
 ふと懐に手を突っ込むと、懐中時計を取り出して眺める男性。
 次の瞬間、「げっ」だか「はっ」だか、とにかく驚愕の声を上げると、そのままどたばたと外に飛び出していってしまった。
 「え、あ、ちょっと…!」
 取り残された私と、半分レジに通された大量の駄菓子。
 な、なんかヘンなお客だなあ。っていうかコレどうしよう。
 ああ、放心したらついでに何か眠気が……


 ふと気付くと、時計は2時を回っていた。
 次の弁当の便は交代後だし、荷の入替えは終わってるし、漫画誌はぜんぶ読んだし、廃棄も食べ……あわわわ。
 外はしとしととキレの悪い小雨が振り続き、うすぼんやりと霧もかかっている。
 こんな日はまずお客は来ない。一眠りしてもいいかな……
 「あのお」
 「ぅふはひぃ!?」
 いつのまにかレジカウンターの前に人が立っていた。
 「やあ、先程はすいませんでした」
 言いながら、がらがらと缶詰ばかり入ったカゴを置く。……先程?
 「これも一緒にお願いしますね」
 ふと気付くと、手元には大量の駄菓子があり、半分ほどがレジに通された事を、レジスターの液晶パネルが示している。
 おいおい、レジに通しながら白昼夢――白昼、ではないけど――にでも陥っていたのか私。
 ひょっとしてナルコレプシーってヤツぅ!?……ってバカやってる場合じゃないや、とっととレジに通しちゃわないと!
 大量の駄菓子をやっつけると、コンビーフと牛の大和煮とサバミソとオイルサーディンの山に挑む。
 「……もうちょっとですね。 トイレお借りしますね」
 こちらの返答を待たず、男性はすたすたとトイレに向かっていく。
 板ガムのパッケージで組んだピラミッドを軽くつつくと、そのままトイレに入ってしまった。
 な、なんかヘンなお客だなあ。
 ああ、何かこの量の缶を見てると妙に眠気が……


 ふと気付くと、時計は2時を回っていた。
 次の弁当の便は交代後だし、荷の入替えは終わってるし、漫画誌はぜんぶ読んだし、廃棄も食べ……あわわわ。
 外はしとしととキレの悪い小雨が振り続き、うすぼんやりと霧もかかっている。
 こんな日はまずお客は来ない。一眠りしてもいいかな……
 「あのお」
 「ぅふはひぃ!?」
 いつのまにかレジカウンターの前に人が立っていた。
 「えは、ひ、らっしゃいませ!」
 いかん、動揺するな驚くな私、それは失礼だぞ私。
 相手は年の頃20代も後半、黒いトレンチコートに丸眼鏡、角刈り気味の線の細い男性。
 「えっと、ですね」
 やおら懐に手を突っ込むと、懐中時計を取り出して眺め――
 「あれ」
 何か前にも同じことがあったような、このヒトとお会いした事が有るような。
 「あ、あの」
 「ええ、そうですよ」
 「へ?」
 「そういう事なんです。でも、まだ少しズレてるな」
 「あ?え?」
 「大丈夫ですよ……それより、その……」
 私の手元を指差して、困ったような顔をする男性。
 ……って何このカンヅメの山!? って言うかレジ通しかけ!?
 ホワイトアスパラを、シーチキンを、イカの味付を、赤貝を、片っ端からレジに通す。
 視界の端で、足跡を昨日の新聞が拭って、そのまま店の外のリサイクルボックスに入っていった。
 男性は懐中時計を指先でかつかつと叩いている。うわあ、なんかイライラされてる?!
 ああ、しかも何故か眠気が……あ、これも……なんか……


 ふと気付くと、時計は2時を回っていた。
 雨も降らない静かな夜、向かいの建物が見えないくらいに濃い霧が掛かっている。
 「はい」
 いつのまにか、また、レジカウンターの前に人が立っていた。今日は床の機嫌が良いのが分かる。
 「すいませんねえ、なんか派手にズレちゃったみたいで」
 カップゼリーが棚に戻りながらチョコレートを棚に足していくのを背に、男が言う。
 「ちょっと動かないで下さいね、外なんか出ない方が良いですよ。……ついでにこれもお願いしますね」
 どんどんどん、と、焼酎(2.7L)のボトルを並べる。
 彼はグミの木を運んできたATMの喉をくすぐってやり、店の外の霧の中に消えていった。
 店の門が降りた瞬間、私は


 「もう大丈夫ですから」
 「はあ」
 ふと気付くと、私は男と茶を飲んでいた。
 ぐーっ、と茶を飲み干し、「時間が掛かってすまなかった」と頭を下げ、万札を2枚ほど取り出す。
 「……は?」
 またしても困ったように、私の手元を指差す。またしても。
 「……ああ、その、2万円ちょうど……に……なります……」
 大量の駄菓子とカンヅメと焼酎がレジに通され、会計を待っていた。
 2万円を受け取り、会計を締め切ると、レジスターからべろべろーんとレシートが出てくる。
 それを気にもかけず、ぱんぱんに膨れた袋を4つ持つと、彼はそのまま店から出ていった。


 ふと気付くと、時計は3時を回っていた
 明るいきれいな月夜。こんな日は、深夜でもよくお客が来る。
 オツマミや酒類をみっちり籠に詰めて持ってきたのは、50も過ぎのおばさん。
 こんな時間に飲むと明日に及ぶよォ、なんぞと思いながらレジに通す。
 「2503円になりまーす」
 ぢゃかぢゃかとサイフを漁り、500円玉5枚と5円玉1枚を出してくる。
 2円をつまむと、レシートと共に返す。
 帰り際、レジカウンターの上のなにかを見ると、そうよねえ、緑茶の方がカフェイン多いものねえ、がんばってねえ……とか何とか言いながら帰っていった。
 「なんだろ?」
 ふとレジカウンターの上を見ると、そこには急須と湯呑が2つ。
 ……はて、こんなもの、何時の間に出したかな……?
 ところでこの、びろーんと入り損ねた長いレシートは何だろう。
 って言うかなんか棚がいくつかスッカラカンなんですけど。
 ……補充しなきゃダメなのかしらん。