ピンポーン。
 小柄でTシャツにジーンズを履いた普通の男性、歳は三十代前後か。
 入店するやフロアマットの上で立ち止まり、180度回れ右して動きを止めた。
 そして、顔を上げて視線を斜め上にし、静止。
 何かを見ているようだけれど。
 …あ、自動ドアのセンサーか。
 この際なので『なんで?』とは思わないことにします。
 しかし、困った。
 あそこに立っていられると、センサーが反応しっぱなしでドアが閉まらないのだ。
 でもきっとたまたま興味が沸いただけでずっと立って見ているわけではないだろうから、少し待ってみたいと思う。
 20秒。
 40秒。
 ―1分。
 「あの~、お客様?」
 「はい」
 振り向きもせず抑揚もない声で男性は返事をした。
 「失礼ですが、そこにお立ちですとドアが閉まりませんので…」
 「うん」
 同じく"せずない"態度で返事をした。
 「店内は空調してますから、空気が逃げてしまうので…」
 「うん」
 あなたは子供ですか!
 「申し訳ないんですけど、どこか別の所に動いていただけると嬉しいんですが…」
 「うん、わかった」
 言って、男性は退店していった。
 …なんで?