ガシャーン!
 ガガガガガ!
 駐車場の方から、明らかに自転車が転倒した音が聞こえてきた。
 あの音の規模と大きさからすると、想像しただけで目をつぶってしまうほど痛烈な惨状になっていることは間違いないだろう。
 ピンポーン。
 漫画のように明快に痛烈な様相の、短髪でちょっとオタクっぽい格好の青年がご入店。
 自動ドアの決して遅くない開扉速度も待ち切れないのかわずかに開いた隙間に身体を滑り込ませて入ってくる、慌てているようだ。
 肩で呼吸しているところを見ると、相当飛ばして走ってきたらしい。
 「すいませんっ!」
 ゼェゼェ言いながら、大声を喉から絞り出す青年。
 「はい」
 「桃色キャッピーありますか!?」
 「…はい?」
 桃色キャッピー…。
 アダルト雑誌にもコンドームにもそんな危ない名前はなかったと思うけれど。
 「すいません、その、桃色キャッピーというのは…?」
 「エロゲー雑誌ですよ! 知らないんですか!?」
 まぁ、コンビニ程度のラインナップでは一般向けのアダルト雑誌が関の山だし…。
 「申し訳ございません、当店では専門誌は扱ってなくて…」
 「そうですかっ!」
 不機嫌に捨て台詞を残して、自動ドアをレールから外さんとする勢いで慌てて退店していった。
 仕入れる商品の選定は私の担当ではないし、私に怒っても何の意味もないのだが、それを彼に指摘することの方がよほど意味がないし疲れるだけなのでやめておく。
 バカチンの続きでも読むか、と雑誌コーナーに向かおうとした刹那、
 「すいませんっ!」
 先ほどの青年がまたガタガタと自動ドアを揺らして再来店。
 「自転車って売ってますか!?」
 やっぱりダメだったんだ…。