永遠の春 終春 作者:レート

「ん…朝か…」

窓から朝日が差し込み、その明るさで自然と目を覚ます。でも身体はだるい。目を覚ましたままフトンにもぐっている。
寝返りをうつようにクルッと横向きになると、そこには春の顔…春の顔?

「うわっ!?」

驚いて飛び起き…はしなかった。驚いたは驚いたけど、妙に落ち着いて春の寝顔を見ていた。
まるで天使のようなその寝顔につい見とれてしまったのだ。しかも至近距離。

「はぇ…?あ…こ〜ちゃん、おはよ〜」
「おはよ」
「あれぇ…?あたし、ど〜してここでねてるの〜?」
「それはこっちのセリフだよ」
「う〜、よくおぼえてないよぉ〜」
「とりあえずはさ。朝ゴハン、食べよっか」
「ふあ〜い」

今日も平凡普通な平日、5月31日。明日から暑い夏の始まりだ。1階へ降りて朝食をとる。

「おはよう、2人とも」
「おはよ」
「おはようございます、ママさん」

普通に朝食を食べ、普通に準備をし、普通に登校する。いつもと同じ行程だ。

学校に到着してボクが春に足し算を教えていると、史哉が不思議そうな顔でボクらを見ていた。なにかおかしいのかな?

「史哉、どうしたの?」
「いやぁ〜…お2人さん、なんか変わったな〜って」
「変わったって?」
「なんかこう、ツッカエが取れて吹っ切れたような…」
「別になにも変わってないよ」
「そうかぁ?」

そうは言ったけど、確かに史哉の言う通り吹っ切れたのかもしれない。この前の一件で何か変わったのかもしれない。
けれどなにが変わろうと、春がボクのそばにいる事は変わらない。変わらないと思ってた。変わらないと思ってたのに…。



放課後。普通に帰宅の準備をし、普通に下校する。このまま家に帰るつもりだったけど…。

「ね、こ〜ちゃん」
「なに?」
「おねがいがあるの〜」
「お願い?」
「ゆ〜えんちつれてって〜」
「…また?」
「うん」
「わかった、遊園地ね」
「わぁ〜い」

妙な間が空いたあと、春が驚くべき発言をし出した。

「こ〜ちゃん」
「ん?」
「つれてって〜」
「…まさか、今?」
「うん」
「むむ、む、無理だってば。もうすぐ暗くなるって時にそんな遠くにいけないよ」
「ど〜してもいきたいの…だめかなぁ〜?」
「んな事言われても…連れて行きたくたって物理的に難しいんだけど…」
「うぅ〜…」

残念がる春を見た時、不思議な気持ちに駆られた。行かないと絶対に後悔する、そんな気がした。

「…朝帰りは覚悟しないといけないよ。それでも行く?」
「いく〜」
「じゃ、今すぐ行こう」

ルートを家から駅に変更、そのまま遊園地に直行する事になった。持ち合わせはなんとかなるから大丈夫。
母さんには駅で電話しておいたから心配はないと思う。まさかこんな時間に遊園地に行くとは…。

…到着、遊園地。周りは真っ暗、時刻はPM9:00。加えて今日は平日。お客はほとんどいない。

「きれぇ〜」
「だね」

暗闇に光り輝くアトラクションのネオン…この世のものとは思えないほど美しかった。
普段ならそんな事を思ったりはしない。けど、今日は特別だったんだ。そう…特別だったんだ。

「それで、なにに乗りたいの?」
「あれ〜」
「観覧車?」
「うん」
「よし、乗ろっか」



観覧車に乗り、ジェットコースターに乗り、メリーゴーランドに乗り、お化け屋敷に入り…
前に来た時とほとんど同じだった。前回からそんなに時間も経ってない。でも…楽しかった。とても楽しかった。

…休憩がてらベンチに座り、閉園の近づく遊園地でジュースを飲んでいた。少し…いや、かなり不思議な光景かも。

「ありがとね、こ〜ちゃん。つれてってくれて〜」
「いいよ、ボクも楽しかったし。朝帰りは確定だけどね(あぁ、無遅刻皆勤賞が…)」
「また来たいなぁ〜」
「何度でも連れてきてあげるよ。春が楽しんでくれるなら、何度だって連れてきてあげるさ」
「…」

返事のないまま春がおもむろにベンチから立ち上がり、ボクの目の前でこちらに向いた。

「こ〜ちゃん」
「ん?」

春は頭を下げてボクに顔を近づけて、そっとキスをした。突然の事で動揺している。心臓の鼓動が早まる。
…唇が離れると春は2、3歩後ろに下がって立ち止まった。

「…春?」
「おわかれだね、こ〜ちゃん」
「え…?」
「じつはね、こ〜ちゃんにかくしてたことがあるの」
「隠してた事…?」
「こ〜ちゃんにつきそえるのは『はる』のあいだだけ…『なつ』になったらきえちゃうの」
「消えちゃう…って?」
「いなくなっちゃうの。このせかいから」
「な、なに言ってるの?冗談でしょ?」
「うそじゃないよ…ほんと〜だよ」
「冗談なんでしょ?ねぇ、冗談だって言ってよ?」

ボクも立ちあがって春に近づき、グッと肩を掴む。ウソだって信じたかった。離れたくなかった。

「なんとかならないの?ほら、海外で今ぐらいの気温の国に行くとかさ」
「ムリだよぉ…」
「ムリなんかじゃない!絶対になにか方法があるはずだよ!探そう、その方法!」
「できないよぉ…もう『なつ』になっちゃうもん…」

時刻はPM11:58。あと2分、たった2分しか春との時間を過ごせない。そう思うといろんな気持ちが一気に湧き上がった。
春を強く抱きしめた。折れそうな細い身体を壊さないくらいに強く…強く抱きしめた。…ボクは涙を流していた。

「春、ダメだ!消えちゃダメだ!」
「こ〜ちゃん…」
「好きだから…春の事、大好きだから…だから、消えちゃダメだ!」
「あたしもすきだよ、こ〜ちゃんのこと。ずっとこ〜ちゃんといっしょにいたい。ほしかったよ…えいえんのはる」
「それでも…消えちゃうの?」
「……うん…」

時が来るまでほんの数秒しかないけれど、春に触れていたかった。大好きな春に触れていたかった。
でも…時が来てしまったみたいだ。春がボクから離れて、白く薄く…消えていく。

「春…」
「あんまりおんがえしできなくて…ごめんね」
「そんな事ない…春はちゃんとに恩返ししてくれたよ…」
「ママさんにもよろしくね」
「わかった、言っておくよ」
「…そろそろ、いくね」
「そっか…」
「……また…あえるかな?」
「もちろんだよ。来年、再来年、その先もずっと…絶対に会えるんだ」
「らいねんの『はる』…またあおうね」
「うん」

「…さようなら、こ〜ちゃん」

春の姿が消えたと同時に目の前が真っ白になり、ボクは意識を失った。





…気が付くとそこは自室のベッドの上。いつものように目を覚ました、気持ちの良い朝だった。

「晃太〜、遅刻するわよ〜」
「…げっ!?もう8時じゃん!急がなきゃ!!」

なんだか長い夢を見ていた気がする。とても楽しい日々の夢を見ていた気がする。
あの日々は全て夢だったんだ…そう思えば悲しみも辛さも少しやわらいだ。


あれが夢であっても、1つ変わらない事がある。


タンスの上に置かれている白いワンピースを着た人形。


その人形は、いつも変わらずそこにいる。


[ 戻る ]