|
永遠の春 遠出 作者:レート
「こ〜ちゃ〜ん、おっきろ〜」 「…」 「おきろ〜、おきてってばぁ〜。えぃ、えぃ」 「イテテテテ………ん?…うわっ!?」 「わ〜、やっとおきてくれたぁ」 「起きたよ!起きたから早く降りて!」 「ふあ〜い。よいしょっと」 「頼む…普通に起こして…」 「あれがフツーだよぉ?」 「ボクの上に乗っからずに起こしてほしいの!」 「う…わかったぁ…」 春がボクに付き添うようになってから数日。特に何事もない日々を送っている。 本当なら何事もない方がいいのだが…春、どこかに行きたくないのかな?息抜きとかしたくないのかな? 元は人形とはいえ今は人間なんだし、どこか遊びに行きたいとかは思うはずなんだけど。 「ねぇ、どっか行きたい所とかない?」 「いきたいところぉ?」 「買い物とか、観光とか。近場じゃないとボクじゃ連れてけないけど」 「ん〜とね〜…う〜ん…」 「どこがいい?」 「えっと…みどりがたくさんあって、ぽかぽかしてるところ〜」 「緑がたくさんあって…ぽかぽか?」 「うん」 「ようするに、ひなたぼっこがしたいわけだ?」 「うん」 「そんなにひなたぼっこが好き?」 「うん」 「まいったな…これじゃどこに連れてっても同じだ…」 「はぇ?」 「他にどこかないの?ひなたぼっこ目的以外でさ」 「ん〜、わかんない」 「困ったな…」 どこかに連れていってあげたくても、希望の場所がないんじゃ仕方ない。でもなぁ…。 「そうだ。動物園なんてどうかな?」 「ど〜ぶつえん?」 「サルとかキリンとか、たくさんの動物がいるところだよ」 「ライオンさんも?ゴリラさんも?」 「もちろんだよ」 「カエルさんとかコオロギさんも?」 「それは動物じゃないからいないけど…」 「どうぶつがたっくさ〜んいるの?」 「数え切れないほどってのは言い過ぎだけど、たくさんね。行く?」 「え〜とぉ…うん、いきたい」 「よし、決まりだな」 「あれぇ?こ〜ちゃん、ガッコウは〜?」 「今日は第2土曜だから休みなんだ」 「はぇ〜、そうなんだぁ」 目的地は決まった。目指すは野生の王国、動物園だ。 今から出発するのはまだ時間が早い。早めにお昼を食べてからでも遅くはないだろう。 …昼食後。簡単な身支度を済ませ、家から最寄りの駅まで徒歩で向かう。10分程度で着くはず。 「ん…春。1つ聞いていい?」 「いいよ〜」 「ボクと会ってから、その白いワンピースしか着てないよね?」 「うん」 「他になにか着ないの?ほら、母さんのお古とか」 「きないよ〜。このワンピース、だいすきだもん」 「なんで?」 「りゆうはないけど〜…ず〜っときてるから、かなぁ?」 「ふ〜ん」 そんなこんなで駅に到着。構内で電車が来るのを待つ。…3分と経たずに電車が来た。 さっさと乗り込んで空いている座席を探し、どっかりと座る。なんか春がキョロキョロしてる…。 「どうしたの?」 「はぇ〜?」 「さっきからキョロキョロしてるけど」 「でんしゃにのるのはじめてなの〜」 「あぁ、そりゃそうだろうね」 「こんなにおっきぃのりものだったんだね〜」 「…どのくらいの大きさだと思ってた?」 「え〜っと、これくらいかなぁ?」 と言って、手で表した大きさ。木の角棒と同じくらいだった。 「春。それ、オモチャだから」 「だってぇ…それがでんしゃだとおもってたんだもん…」 「ま、しょうがないか」 電車が動き出すと、春はとてもソワソワして興味津々。座席の上にヒザで座って外を向き、景色を眺めている。 「わぁ〜…こ〜ちゃん、みてみて〜。ビルとかおウチがながれてっちゃうよ〜」 「…建物が流れてるんじゃない。ボク達が電車に乗って動いてるんだ」 「はぇ?そ〜なの?」 「そうだよ」 「でんしゃってはやいんだね〜」 「あのさ…」 「んにゃ?」 「恥ずかしいから、ちゃんと座っててほしんだけど…」 「ど〜して?」 「いいから」 「ふあ〜い…」 …動物園に到着。電車を降り、少し歩いて入園。 「わぁ〜、おサルさんだ〜。あ〜、キリンさんもいるよ〜」 動物園でこんなに騒げるなんて…ハタから見ればボクと同い年だってのに…。 「こ〜ちゃ〜ん、早くぅ〜」 「はいはい、わかったよ」 でも、たまには動物園もいいかな。毎日男の顔しか見ない学校生活には目の保養になるね。 春も喜んでくれてるみたいだし、来て良かったかな。 「へ…へぁ…くしゅん!」 「大丈夫?風邪ひいちゃった?」 「はにぇ…へ〜きだよ〜」 「そっか」 … その後もたくさんの動物を見て回った。歩き疲れたのでベンチに座り、ジュースを買って少し休憩する。 「はい、オレンジジュース買ってきたよ」 「わぁ〜、こ〜ちゃんありがと〜」 「オレンジジュースで良かった?」 「うん。これ、とってもかわい〜よ〜」 「それはQooって言って、そのジュースのマスコットキャラなんだ」 「はぇ〜」 春が缶のフタを開け、ジュースを口にすると、いきなりしょげた顔をしてジュースを口から離す。 「あれ?おいしくなかった?」 「ううん…ちがうの。あたし…こ〜ちゃんにぜんぜんおんがえししてない…」 「ど、どうしたのさ?そんな事ないって。ほら、毎日起こしてくれてるじゃんか?」 「…おんがえしになってるかなぁ?」 「もちろんだよ。春が起こしてくれなかったら無遅刻皆勤賞がパァになってたかもしれないし」 「そっかぁ…よかった〜」 さっきまでのしょげ〜っとした顔から一転、いつもの無邪気な笑顔に戻った。 「もっとどうぶつみようよ〜」 「ま、待ってって、ジュース半分も飲んでないよ」 春がベンチから立って、ピョンピョン飛び跳ねながらボクを急かす。と、いきなり春が誰かとぶつかった。 「わぁ〜」 「ふわぁ!」 両者、共にダメージは低い。 「あ〜ぁ。春、だいじょぶ?」 「うん…」 「すいません、付き添いの者が…あれ?」 後ろを振り向いてぶつかった人に謝るが、姿が見えない。 「こ〜ちゃん、した〜」 「下?」 顔を下にやる。アヒル座りをした小さな女のコがいた。 「キミ、大丈夫?」 「うにゅ〜…痛いよぅ…」 「ごめんね。このコにはきつく言っておくから」 「ふぇ?あ…わたしも悪かったんです、ごめんなさい」 「ケガ、ない?」 「あ、えと、それよりもわたし、急いでるから…。あっ!待ってよぉ、キート〜!」 「あれ…行っちゃった」 踵を返してくるっと振り向くと、春がパタパタと服をはたいてゲンナリしていた。 「春」 「ごめんなさい…」 「いいんだよ、わかってれば」 「…やさしいんだね、こ〜ちゃん」 「まだ動物見るんでしょ?」 「うん」 「たくさん見たいならこういう時間はうまく使わないとね。さ、早く行こう」 「ふあ〜い」 さらに動物を見て回り、日も暮れ始めたので電車に乗って帰路に付く。 電車内で、ボクの肩になにかが乗っかった感触がある。右を向くと、案の定 春の顔が肩に寄り掛かっていた。 「春?」 「…」 動物園ではしゃぎ回ったから疲れたのかな…ぐっすり眠ってる。駅に着くまで寝かせといてあげよう。 …家に最寄りの駅に到着。春を起こさないと。 「お〜い、春。着いたぞ〜」 「はぇ…?」 「春、起きて。降りるんだよ」 「…おやすみぃ〜…むにゃ…」 「おい、春!寝るなってば!」 「…」 まいったな…仕方がない、おぶってくか。 …春をおぶったまま、なんとか我が家に到着。疲れた…重い…。 「おかえりなさい、晃太」 「ただいま…」 「あらあら、春ちゃんは夢の中かしら?」 「電車で眠っちゃって、そこから一向に起きる気配がないから…」 「寝る子は育つって言うじゃない?」 「母さん…またツッコミどころが違うよ…」 「部屋に寝かせてきなさいね」 「わかってるよ…」 [ 永遠の春 風邪 ] [ 戻る ] |
||