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永遠の春 遊園 作者:レート
「こ〜ちゃん、あさだよ〜」 「ん…」 「こ〜ちゃ〜ん、おきてよぉ〜」 「…」 「むぅ〜…こ〜なったら〜…」 突然ボクの耳元に口を近づけ、ふ〜っと息を吹きかける。少し目を覚ましていたボクは驚いて飛び起きた。 「うわっ!?」 「おきた〜?」 「春!へ、変な事するんじゃない!」 「してないよぉ〜、こ〜ちゃんおこしただけだもん」 「と、とにかくもうこんな事はしないように!わかった!?」 「ふあ〜い…」 なんで朝っぱらからドキドキしなくちゃいけないんだ…。あぁ〜もう、耳がムズムズする…。 今日は平日、だけど休み。だって県民の日だもん。昔の人も随分と手抜きだよなぁ。県民の日ってなに? とにかく今日は休日。たまには家でゴロ〜っとしようかなぁ…。が、春の悲しい視線がボクにグサグサと刺さる。 「こ〜ちゃん…どこかいこ〜よぉ〜」 「今日は家で休みたいの。また今度ね」 「おうちでゴロゴロしてるとふとっちゃうよ〜」 「う…」 ちょっと痛い所を突かれた。部活をサボりっぱなしで体重が増え気味だったりするからだ。う〜ん…どうしよう。 「わかったよ、外に出よう」 「わぁ〜い」 「どこか行きたいトコあるの?」 「こうえんいきたいなぁ〜」 「また?」 「うん」 「どうせなら少し遠めのとこに出かけようよ」 「はぇ?」 「この前動物園に行ったでしょ?あれくらいの範囲内のどこかさ」 「じゃあど〜ぶつえん」 「ねぇ…もっと他に行きたいとこないの?」 「わかんないよぉ〜」 「あ、そっか…ごめん」 どこに行こうかとてつもなく悩む。そんなに行動派じゃないボクには観光地なんてほとんど思い付かない。 史哉は雑学に長けてるからすぐに思い付くんだろうなぁ…そこらへんはうらやましいよ。そこだけ、だけど。 ホントに困った、メチャクチャ困った。なに1つ思い付きやしない。まいったなぁ…う〜ん…。 「こ〜ちゃん」 「ん?」 「むずかしいかおしてるよ〜」 「そう?」 「やさしいかおじゃないとこ〜ちゃんらしくないよ〜」 「ボクらしく、ねぇ…」 公園に行った時と同じプロセスになるけど、とりあえず1階へ降りて朝食を食べよう。 「おはよう、二人とも」 「おはよ」 「おはよ〜ございます、ママさん」 朝食を食べながらどこに行くかひたすら悩む。一人で行き先を決める事がこんなに大変だなんてなぁ。 「こ〜ちゃん」 「ん?」 「むずかしいかお〜」 「あ…ごめん」 「かたいかおしてるとオニさんみたいになっちゃうよぉ〜」 そう言いながら春はボクの両頬をグイグイと引っ張る。本人は『かたいかおするな〜』なつもりでやってるんだろうけど ボクはただ単に痛覚が走って痛い。でも、ボクはそれを止めようとしない。なんでだろう…自分でもわからない。 恥ずかしい気持ちもあるんだけど…そんな純粋無垢な春の仕草がかわいくて…。しばらくこうしていたかったんだと思う。 突拍子もなくボクはまた名案を閃いた。喋ろうとしても春が頬を引っ張ってうまく喋れない。これじゃ学級文庫だ。 「しゅ、春」 「はぇ?」 「あ、あのは…ひゅ〜えんちひほう」 「わかんないよぉ〜」 「手…はなひて」 「ふあ〜い…」 少し名残惜しそうに春がボクの頬を引っ張っていた手を放した。ボクも名残惜しかった、なんて言えるわけないか…。 「遊園地行こう」 「ゆ〜えんち?」 「そ、遊園地」 「たのしい〜?」 「色々なアトラクションがあって楽しいよ」 「そこにいこ〜」 「うん、わかった」 準備を整えていざ出発、目指すは遊園地。遊園地なんて何年ぶりだろ…小さい頃に父さんに連れてってもらって以来だ。 最寄り駅まで徒歩。それ以降は電車を乗り継いで行く。この歳になって電車で迷う事なんてないよ、もちろん。 …出発から約1時間で到着。本当なら平日なはずだからお客もかなり少なめみたいだ。 「うわぁ〜、すご〜い」 「どれか乗りたいのある?」 「え〜っと…う〜んとぉ…」 「別に1つしか乗れないわけじゃないから、まず何に乗りたいか考えればいいんだよ」 「ん〜…あれのりた〜い」 春が指差す先にあるアトラクション、観覧車。しょっぱなから観覧車もどうかと思うけど、まぁいいか。 券を買って係員さんに券を渡してから観覧車に乗った。何年ぶりかな…この観覧車に乗るのも。 「わぁ〜、たかいたか〜い。こ〜ちゃんみてみて〜、とってもたかいよ〜」 「うん…そうだね」 ボクが見ていたものは雄大な美しい景色じゃない。目の前にいる楽しそうな少女だった。 遊園地に連れてきてこんなに楽しんでくれているのが嬉しくて…そして…かわいくて…。 「…はぇ?こ〜ちゃん?」 「うん?」 「あたしのかお、なにかついてる〜?」 「あ、いや…なにも付いてないよ」 「じ〜っとみてたよ〜」 「ち、違うよ。ほら、向こうの景色を見てたんだ。春も見てみなよ、後ろの景色も」 「ふあ〜い」 …観覧車の次はジェットコースター、メリーゴーランド…などなど、たくさんのアトラクションを楽しんだ。 高校生にもなってこんな事しててすさまじく恥ずかしいのはわかってる。けど、春と一緒だとあまり気にならなかった。 「こ〜ちゃん、あれな〜に?」 「あれはお化け屋敷だよ」 「おばけやしき〜?」 「屋敷に入ったら出るまでお化けがひっきりなしに出てくるんだ。入ってみればわかるよ」 「じゃあはいろ〜」 お化け屋敷に突入。父さんと母さんの家族で来た時は随分と怖がってたっけ、ボク。 さすがにもう怖くはなくなったけど、春は大丈夫なのかな?怖がって泣いちゃったらどうしようか…? 「くらいよ〜」 「こういうものなんだよ」 「はぇ〜」 とその時、壁から堕落したミイラが現れた。いきなりだったからさすがのボクも少し驚いた。 「こ〜ちゃん、これな〜に?」 「…怖くないの?」 「こわくないよ〜、かわいいよ〜」 「か…かわいい…」 これはこれで喜んでるみたいだからいいかな…。ごく自然体に近い性格だと怖いものなんてないのかもしれない。 お化け屋敷を出ると、太陽の日差しが眩しくてちょっとだけ目が開けられなくなった。 ノドも渇いてきたので休憩でもしよう。適当にベンチに座ってボクがジュースを買ってくる事に。 「春、ここでおとなしく待ってるんだよ?」 「ふあ〜い」 売店でジュースを買い、やや急ぎ足で春の元へと戻る。…春の姿が見当たらない。 「春〜?どこ〜?」 大きめの声で春を呼ぶが、反応はない。近くにはいないみたいだ。仕方ない、探すとしよう。 … 一向に春が見つからない。カンペキな迷子になってしまった。どこに行っちゃったんだろ〜なぁ…。 困り果てながらも春の姿を探していると、アナウンスが園内に響き渡る。 『進藤晃太様、お連れ様がお待ちです。至急事務所前までお越しください』 おいおい、これじゃボクが迷子みたいじゃんか…。まぁいいや、春が見つかったんだから。 …小走りで事務所らしき場所に到着。そこにいたのは係員さんと春、そして公園で会った女性、葉摘さんだった。 「こ〜ちゃ〜ん…」 春が泣きながらボクに抱きついてきた。よっぽど寂しかったんだなぁ。 「どこ行っちゃったの?心配したんだよ」 「あのね…こねこさんがいたからおっかけたら、どこだかわからなくなっちゃったの…」 「そっか」 「ごめんなさい…」 「いいよ、春が見つかったんだから」 抱きついている春の頭をポンポンと軽く叩いた。…とてもかわいそうだったから、少し強めに抱き返した。 ところでどうして葉摘さんがこんな所にいるんだろうか?聞いてみないと。 春と離れ、葉摘さんの所へ歩み寄る。なんだか複雑な表情でこちらを見ていたような…。 「こんにちは」 「こんにちは。あの…葉摘さん、ですよね?」 「え?どうして私の名前を?」 「公園で葉摘さんがいきなりどこかへ行ってしまった時に名刺を落として、それで」 「へぇ〜。会社に行く途中で急いでたのよね…全然気が付かなかったわ」 「今日はどうしてこんな所に?」 「息抜きにと思って有給とったのよ。そしたらそのコが泣きながら歩いてたからワケを聞いてこうなったわけ」 「そ、そうだったんですか…。ありがとうございました」 「いいのよ、これくらい」 「ちょっと時間ありますか?」 「なに?」 「この前聞けなかった事、色々とお聞きしたいんです」 「あ…えぇ、わかったわ」 バッタリ再会した葉摘さんに、公園で聞けなかった話を聞く事になった。ボクの興味本意なだけなんだけど…。 でも、まさかこんな事がわかるなんて思いもよらなかったよ…。近くのベンチに座って話を聞く。 「このコの名前が春だってわかって驚いていましたよね?」 「…同じ名前なのよ、私の子と」 「という事はその子の名前、『穂村 春』…ですか?」 「そうよ」 「…」 ただの偶然だとは思えなかった。名前も同じ、姿もうりふたつ。偶然なんかじゃない、きっとなにかあるはずだ。 「葉摘さん…このコの名前も『穂村 春』なんです」 「え…?」 葉摘さんは目を丸くして硬直した。かと思いきや春を見つめ、深く考え込んでいる。 「ぐ…偶然よ、偶然」 「そうでしょうか?」 「う…」 「春、ホントに葉摘さんに見覚えはないの?」 「え〜っと………あっ」 「見覚え、あるの?」 「こ〜えんでみたひと〜」 「…じゃなくて、もっと昔に」 「ん〜…」 神妙な面持ちで春の顔を見つめる葉摘さんに対し、あっけらかんとした表情で葉摘さんの顔を見つめる春。 「よくわかんないけどぉ…なつかしいかんじがする〜」 「なつかしい?やっぱり見覚えがあるの?」 「………お…かあ…さん…?」 「ん?なに?」 「…ううん…なんでもないよ〜」 「そっか」 声が小さくてハッキリ聞き取れなかった。いつもの口調とは少し違った…気になる。 そんな春を見た葉摘さんが溜め息をし、安堵の表情を浮かべた。 「ほら、やっぱり偶然よ」 「そうは思えないんですけど…」 「もし生きているとしたら警察が見つけて連絡が来るわ。それに、あの子がこんなに大きくなっているはずがないもの」 「それはそうかもしれませんが…」 「なんでもかんでも気にしてたら仕事なんてやっていけないからね」 「はぁ…」 そこで話は途切れた。3人ともどことない仕草で辺りを見まわしている。すると、葉摘さんがゆっくりと腰を上げた。 「さて、私はそろそろおいとまするわ」 「え?そんな、もう少し…」 「な〜に言ってるの。私だって、2人の時間を邪魔するほど悪じゃないわよ」 「べ、別にそういう関係じゃ…」 「照れなくてもいいじゃない。またどこかで会えたらいいわね。それじゃ」 「あ…」 葉摘さんは遊園地の雑踏へと消えていった。そういえば、以前会った時よりも口調が親しかったような。 「こ〜ちゃん、ジュースは?」 「あれ…どこだっけ…。慌てて春を探してたから忘れちゃった…」 「ありがとぉ、こ〜ちゃん」 「へ?な、なにが?」 「さがしてくれたんでしょ〜?あたしのこと〜」 「あ…うん」 「ありがと〜」 「ぅ…」 思わず照れてしまった。確かに春がいなくなった時はかなり焦ってたから…それだけ春が心配だったんだ。 … アトラクションも一通り楽しみ、夕暮れが近づいて来たので家に帰る事にした。 帰りの電車の中、春はボクの肩に頭を寄せてぐっすりと眠り込んでいる。家に着くまで寝かせてといてあげよう。 …駅に着いても春は目を覚まさず、またしてもおぶって連れ帰った事は言うまでもなく。 [ 永遠の春 悲哀 ] [ 戻る ] |
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