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雪景色と冬椿 第五節 作者:レート
…次の日。 「ほな行ってきま〜す」 早起きは花火はいつも同じ時間に家を出ます。性格に似合わず几帳面だったりする? 家を出てしばらくするとあの十字路で椿に会い、今日もまた一緒に学校を目指します。 「冬矢、弁当は?」 花火がそう尋ねると、椿は持っていたカバンを軽くポンポンと手の平で叩きました。 カバンの中、と言いたいのですね。花火は朝食を食べたばかりなのに弁当が食べたくて仕方ないのです。 「いつも悪いな、作ってくれはって」 「パンの…お礼だから…」 お礼と言ってもたかがパン1コ。それももう何日も前の話です。単なる恩返しとは思えません。 学校を目指して歩いていると、道端に座り込んで泣きじゃくっている子供がいました。 それを見た椿が子供に駆け寄って膝を曲げてしゃがみ、頭を撫でてなぐさめています。 「どうしたの…?」 「うぅ…ぅ…ひっく…。ひ…ひざぁ…いたいよぅ…」 どうやら登校途中につまづいて転倒、膝を擦り剥いてしまったようです。 椿はいそいそとカバンから小さな箱を出しました。中身は…携帯用の救急セットですね。 「しみるけど…我慢してね…」 脱脂綿に消毒液を染み込ませ、子供の膝の傷に当てて消毒しました。 消毒が終わると今度はカットバンをどこからともなく取り出し、子供の膝に張りました。 「これで…大丈夫…」 「ねえちゃん、ありがと!」 先ほどの泣いていた表情はどこへやら、子供はすっかり元気になって走っていきました。 また転ばないように心の中で祈りつつ、椿は花火の元へ戻ります。 「…優しいんやな」 「あ…えと…」 「なんで救急セットなんか持っとるんや?」 「もしもの時の…ために…」 「こういう時のためか?」 椿は少し顔を赤らめながらこくっと頷きました。 「備えあれば憂いなし、やな。準備がええやないか、いい嫁はんになるで」 追い打ちを食らった椿は顔一面が朱色に染まり、俯いてしまいました。かなり恥ずかしそうです。 …学校に到着しました。教室に入り、自分の席に座ります。他の生徒も集まっています。 花火が大きなあくびをして机に倒れ込みました。…今にも眠りそうです。 「煎御谷くん…?」 「昼になったら起こしてや〜…ワイは寝るで〜…」 「ダ…ダメだよぉ…」 椿は花火を起こそうと身体を揺さぶりますが全く反応がありません。それどころかイビキをかき始めました。 なんとか起こそうと果敢に挑戦した椿でしたがどれも失敗、諦めて昼まで放っておく事にしました。 …昼休みになりました。爆睡中の花火を起こそうとがんばる椿です。 「煎御谷くん…」 「…」 「煎御谷くん…起きて…」 「…」 内気で大人しい椿です、暴力行使で叩き起こしたり大声で起こしたりはできるはずもないのです。 それでも懸命に花火を起こそうとがんばります。でないとせっかく作った弁当がムダになってしまいますからね。 しかし椿のがんばりの甲斐も虚しく花火は一向に目を覚まそうとせず、ついには泣き出してしまいました。 …一足遅れて花火が目を覚ましました。横で椿が涙を流しているので驚いています。 「わっ、ちょっ、なな、な、なんで泣いてんねん!?」 「煎御谷くん…起きてくれない…」 「ほ、ほら、起きたから!起きたから泣くなや!」 溢れ出る涙を手で拭いながら、やっと目が覚めた花火を見て安心したようです。 なんとか涙も止み、目をゴシゴシと拭きました。 「高2にもなって泣くこたないやろ…」 「煎御谷くん…起きてくれないから…」 「…おおきに」 「え…?」 「泣いてまうまで必死こいて起こしてくれたんやろ?」 椿はこくっと頷きました。 「堪忍な」 椿は小さくこくっと頷きました。 「で、弁当は?」 「あ……はい…これ…」 自分の机の上にあらかじめカバンから出しておいた弁当箱を花火に手渡しました。 空腹でたまらなかった花火は早々と弁当の包みを取り、弁当箱のフタを開けました。 中身は唐揚げやエビフライ、普段なら白飯なはずがチャーハンになっていたりと豪華絢爛です。 「ほな、いただきます」 花火はガツガツと、かつ味わいながら弁当をたいらげていきます。それを椿が嬉しそうに見ています。 5分後…彩りを飾っていた弁当箱の中身は花火によって全て食べ尽くされてしまいました。 「ごちそ〜さま…あかんわ、も〜食えへん…」 「どう…?」 「うまかったで。100点満点や」 「……よかった…」 花火に満点の評価を頂戴した椿は嬉しくて嬉しくて、思わず小躍りしてしまいそうでした。 …放課後になりました。いつものように2人は一緒に下校します。 十字路に到着して別れようとすると、椿がちょっと改まって花火の前に立ちました。 「煎御谷くん…あの…」 「なんや?」 「来週の月曜日…空いてる…?」 「来週の月曜?平日か?」 椿は違う違うと言わんばかりに顔を横に振りました。 「クリスマスイブで…振替休日…」 「あぁ、そうなんや」 ほんの少し間を置いて、花火が話し出しました。 「んで、イブがなんやて?」 「その日…空いてる…?」 「ほとんど予定なんて入れへんからな。余裕で空いとるで」 「じゃあ……付き合って…ほしいの…」 「また買い物か?」 本当はそうではないのですが、自分の口から言うのは恥ずかしかったのでとりあえず椿は頷いておきました。 「夜の7時に…センターピュアの前で…」 「夜7時にセンターピュアで待ち合わせやな?」 椿はこくっと頷きました。 「ん、わかった。来週な。ほな」 2人は別れ、各々の家に帰りました。 [ 雪景色と冬椿 第六節 ] [ 戻る ] |
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