…翌朝。フレイを目覚めさせるのに唯も一苦労である。
「フレイさん、起きてください」
「…」
「フレイさん!」
「ん…あれぇ…?唯ちゃん、こんなところでなにしてるのぉ?」
「はい?」
「…ぐぅ」
「もぅ…」
ふとんを剥ぎ取る唯。さすがに寒さが堪えたのか、フレイが目を覚ます。
「う…さ、寒い…」
「起きてください、朝ですよ」
「ん…わかった…」
唯の手料理による朝食をとっている最中、フレイが唯に質問をする。
「唯、ヒューノットってなんだ?」
「ヒューノット、ですか?ヒューノットはここから南にある町ですよ」
「そこに行こうと思うんだが、いいか?」
「わたしは構いませんが…どうして突然?」
「いや、ちょっとな」
次の目的地、ヒューノット。古代文明を重んじる独特な雰囲気の漂う町。
宿を出ようとすると、宿屋の主人が悲しそうな顔で唯を見つめる。
「出ていってしまうんですね…」
「そりゃ当然だな、ずっとここに居るわけがない」
「旅の無事を願います…」
「ん」
と、そこに唯が割って入る。
「ご主人さん、なにかワケがありそうですね」
「いえ…お客様にお話するような事じゃありませんから…」
「よろしければお聞かせくださいませんか?」
「…じつは…」
その後、宿屋の主人から、昔なにがあったのかを事細かく話を聞いた。
「では、お亡くなりになった奥様がわたしにそっくりだと…」
「えぇ…」
「それで宿代をタダにしてくださったのですか…感謝いたします」
「そ、そんなお礼を言ってもらうような事はしてませんよ」
「でも…ごめんなさい。わたし達は足を止めるわけにはいかないんです」
「…わかってます」
「この旅が終わったら、またここに泊まらせていただきますから」
「ホ、ホントですか!?」
「はい」
「あ、ありがとうございます!その時はまたタダでどうぞ!」
「ふふ…重ねて感謝いたします」
宿を後にし、ヒューノットへ向けて歩き出す。
「これでいくらでもタダであそこに泊まれるな」
「フレイさん、あまりそのような事を言うものではありませんよ」
「ん…すまない」
唯に咎められ、やや意気消沈なフレイ。
「必ずまた来ましょうね、アイスヴィクスンに」
「そうだな」
…
到着、ヒューノット。アイスヴィクスンからの距離はさほど離れていなく、短時間で辿り着いた。
「な、なんだ、ここは…熱くもないのに熱~く感じる…」
「ヒューノットは独特の雰囲気を持っていますからね」
「…あのでかい建物は?」
「古代文明の遺物や古代生物の化石などがたくさん置かれている、いわば博物館のようなものです」
「へぇ~」
「ヒューノットと言えばこの博物館、というくらいですから」
「(snakeが言ってたのは、この事かもしれないな…)よし、行ってみよう」
「わかりました」
館内にはありとあらゆる古代文明の復元品などが無数に展示されている。
唯はやや興味があるようだが、フレイに関しては全く興味もなく、ただ眠気が襲ってくるばかりだ。
(なんだ…なにもないじゃないか…snakeが言ってたのはここじゃないのか?)
今にも寝てしまいそうなくらい大きなあくびをかいていると、なにかを思い出したかのように
数歩下がってある一つの絵を凝視する。
「これ…ペンダント…」
その絵に描かれていたものは、ペンダントに付いていた『蒼の霊石』その物だった。
「唯、これだ!俺が探しているのはこれだよ!」
「…」
「唯?」
「これ…わたし、見覚えがあります」
「はへ?」
「どこかで見たような…」
「どこかでって、そりゃ………そうか、唯はペンダントを見た事はないんだよな…」
「なんだか…なつかしいような…」
「どういう事だ?」
「虻谷の森の遺跡で感じたなつかしさと同じなんです…」
「…」
フレイがなにか言おうとするが言葉にならず、声を篭もらせてしまう。
「端になにか書いてありますよ」
「ん…?」
『世界を滅せる強大な力を欲するならば、蒼の霊石を用いてヒーラーをガーデンへと導け』
(これ、前に黒影が言い残した謎の言葉じゃないか…)
「…いや…」
「唯?」
「いや…やめて!」
「唯?どうした?」
「それを目覚めさせてはいけない!」
「唯?おい、どうしたんだ!?」
「世界が滅んでしまう!このままでは…世界が…世界が…!」
唯は意識を失い、その場に倒れてしまう。
「唯!しっかりしろ、唯!!」
…
「…あ…れ?」
「唯、気が付いたか?」
唯が目覚めた場所、ヒューノットの宿屋の一室。
「わたし…どうして眠って…」
「博物館でなにかを言い出したと思ったらいきなり意識を失って、驚いたよ」
「…わたしが、ですか?」
「覚えてないのか?」
「はい…」
「きっと疲れてたんだ、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます…」
寝床で唯が眠りにつき、フレイがベランダでボ~っとしていると、頭に直接声が伝わってくる。
「フレイよ…」
「炎命?敵か!?」
「汝に話がある」
「なんだ、今度こそマジメに話してくれるのか?」
「勘違いをするな。あれは我が目覚めて間もないがために、意識をうまく保てなかったのだ」
「んじゃ、色々と聞かせてもらおうか。お前はなんなんだ?」
「我はヒーラーズウェポン。ヒーラーの力により作られた兵器だ」
「そのヒーラーとかなんとか…よくわからないんだが」
「ヒーラー…治癒能力を持った一族の名だ」
「治癒…能力?」
「傷を負ったガーディアンを癒す事が主な任務だ」
「その…ガーディアンって、なんだ?」
「汝の事だ」
「…俺?」
「ヒーラーを守護する者…それをみなガーディアンと呼ぶ」
「…じゃあさ…唯もそのヒーラーなのか?」
「無論だ」
「…」
一度に降り注いだ大量の情報にフレイは混乱する。
「じゃあ…『蒼の霊石』は一体なんなんだ?」
「所持者をヒーラーへと導く石だ」
「そうか…だから俺は唯と出会ったのか…」
「他にも使い道があるようだが、我の至る所ではない」
「唯は?唯はどうして狙われているんだ?」
「恐らくヒーラーの秘められた力を狙っているのだろう」
「秘められた力?なんなんだ、それは?」
「…」
「おい、炎命!?」
「…」
「くそっ!肝心な時に…!」
情報を整理しようとするが、混乱して思うように考えがまとまらない。
「…」
「フレイ…さん?」
「…」
「フレイさん?」
「…ん?あぁ、唯か。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで」
「そっか…」
少しの間を置き、フレイが問いかける。
「なぁ、唯…」
「はい?」
「…いや、なんでもない」
「そうですか…」