じりりりりりりりりりり…カチッ。
当たり前だがまたしても目覚まし時計に起こされる。
時間は…9時40分か。なんか昨日より早いけど、まぁいいか。

今日も当然千夏は学校だ。ヒマなのでやっぱりバイト探しに出てみる。



…案の定、収穫はない。だがこのまま引き下がるオレではない!
一念発起してバイトを探す。が、やはり収穫はない。

(オレってダメだなぁ…)

意気消沈なままブラブラ歩いていると、目の前に見覚えのない博物館げな建物あった。
こんなトコあったっけ、と思いつつもなぜか中に入っていった。そう、なにかに引き込まれるかのように…。

展示物はセオリー通り歴史を感じさせる土器や建築などなど。
別に歴史に興味があるわけでもないのになんで入ってしまったのか。

「自分でも不思議だ。千夏と来ればよかったかな…」

さっさと出ようと思い脚を速めると、ふと ある展示物が目に止まった。
大昔の刃物である。『それ』を見た瞬間、とてつもない嫌悪感に襲われた。

(な…なんだ…?単なる刃物なのに…なぜこんなに見るのが…辛い…?)

気が変になりそうだったオレはすぐに博物館を出た。
なぜあんな気持ちになったのかわからない…。一体なんだったんだろうか…。
グルグルと考え事をしていると、聞き覚えのある声が耳に入った。

「あれ?キート、なにしてるの?」
「千夏?なんでこんなとこに?」
「だってここ、東大の歴史館だよ?わたしがいてもおかしくないよ」
「はっはぁ~。ここ、東大の歴史館だったわけか。ヒマだったからちょっと入ってみたんだ」
「ふぇ~、歴史になんて興味あるの?」
「ぜ~んぜん。でも、心の奥で惹かれるものがあってな…自分でもよくわからん」
「ふ~ん…あ、そだ!今日はどこか食べに行こうよ!」
「は?だって、明日パーティーやるんだろ?」
「うん!」
「今日外食して、明日パーティーやって…って、そんなに金使っていいのか?」
「だから、お金は心配しなくてもいいの!」

…宝クジでも当てたんか、千夏は。

「んで、どこに行くんだよ」
「えっとね~…吉牛!」
「おっ、いいね。行こ行こ」

もう少しテンプルハイな店に行くかと思っていたが、大の吉牛好きなので全っ然気にしない。

「並1つくださ~い」
「じゃ、オレも並1つ」
「ダメだよ、育ち盛りなんだからもっと食べないと」
「おいおい…育ち盛りったって、明日でハタチなんだぞ…」
「特盛2つくださ~い」
「…千夏さん。さすがのボクちんでもそんなに食べられません」
「だいじょ~ぶ!いざとなったら火事場の馬鹿力で食べれるから!」

なにを根拠にそんなことを言うのかわからない。それ以前に食欲に馬鹿力が作用するのか。
注文してしまっては仕方がない、とりあえず食べることにした。が、1杯半で限界である。

「…千夏、単刀直入に言う。ムリだ」
「ダメだよ、もったいないもん」
「じゃあどうしろと言うのだ」
「がんばって全部食べるの」
「…」

結局、特盛2杯を完食させられたオレは千夏の家に15分のところを倍の30分かけて帰った。
帰ってから、少し千夏と雑談が始まった。

「ねぇねぇ、キートは昼間なにしてるの?」
「外出」
「じゃなくて、外に出てなにしてるの?」
「呼吸」
「…イジワル」
「バイト探しだ」
「バイト?なんでバイト探してるの?」
「職無しってのもカッコ悪いし、なによりこのままタダで住みつくのはあんまり…な」
「ん~…友達がバイトしてくれる人探してたけど…」
「お?なんのバイトだ?」
「新聞配達なんだけど…」
「ヤだ」
「やっぱり…」
「他にはないのか?」
「えっとね~…あ、友達が吉牛で働いてるんだけど、バイト募集してるみたい」
「…マジ?」
「うん」
「っしゃあ~!そんな願ったり適ったりなバイトがあるなんて思わなかった!!」
「ちょ、ちょっと…近所迷惑になるから大声出さないでよ…」
「はっ…すまんすまん」

大人気無いほど嬉しがってしまった。舞い上がってしまった。
吉牛好きのオレが吉牛でバイトできるってんだからそりゃあ嬉しいだろう。
もちろんメシは吉牛だし、バイトなんだからプライベートでくればちったぁ安くなる。たぶん。
ああ、ありがとう千夏、そして千夏の友達。あんたら救世主だ。
ってわけで千夏の友達経由で吉牛に電話、明日面接だそうだ。
安心しきったオレはそのまま寝ようとするが、千夏のウノ攻めが待っていた。
またしても遅くまでウノをやらされたオレは眠気最高潮で爆睡した。