じりりりりりりりりりりりりり…カチッ。
現時刻9時20分…やっぱり20分ずつ早くなってるな。どうでもいいか。
オレも今日でハタチか。成人式なんて性に合わないので行くはずもない。
そういや千夏の誕生日っていつだっけ…たしかオレの1日あとだから…明日か。
偶然にも千夏とオレの誕生日は近い。近いというか、1日ズレただけだ。

顔を洗い、さっさと準備を整えて吉牛のバイトの面接へ向かった。
汗臭そうなオヤヂが3人、イスにどっかりと座っていた。ああいうのにはなりたくない。

…面接終了。面接員の顔がやたら不機嫌そうだった、落ちそうだな。
もちろんヒマなのでレッカマンの続きを読むべくオレは本屋へ。
果たしてレッカマンをどこまで読み続けるのか…。
とりあえず1冊を手に取り購入、急いで千夏の家に戻りレッカマンを熟読する。
これが教科書だったらオレの頭脳はどこまで進化していたか、などとバカな考えをしてみる。

時間が経つのも忘れて何度もレッカマンを読み返していると
いつの間にやら千夏が帰ってきた。手にはケーキ…そうか、誕生パーティーか。

「それではこれより、キートくんのハタチの誕生パーティーを始めま~す!」
「わ~い(勢いで)」
「ケーキに20本のローソクをたてま~す!」
「わ~い(勢いで)」
「ローソクに火をつけま~す!」
「わ~い(勢いで)」
「ねぇ、もっと楽しくやろうよ」
「へいへい」
「それではいよいよ、キートくんが火を吹き消しま~す!」
「ふぅ~(やる気なし)」
「全部消えました~!パチパチパチ」

…全く力を入れずに吹いたのに、よく消えたもんだ。神のご加護ってヤツか。

「もうオレもハタチか…酒だ、タバコだ、なんでもありの合法年齢帯だ」
「お酒もタバコも身体に悪いからダ~メ」
「ちぇっ…まぁ、良くも悪くもアルコール・ヤニに興味はないし、いいか」

その後、ケーキを食べることになった。もちろん丸いショートケーキだ。
オレは標準的なショートケーキサイズ1つ、千夏は残り全部を食べるらしい。
そういや千夏は甘い物には目がないんだったな…。でも太らないから不思議だ。
オレがケーキを食べるよりも早く千夏はでかいケーキを食べ尽くした。速すぎる。
そしてオレもショートケーキを食べ終え、ビンゴゲームなどで楽しんだ。二人きりなのに盛りあがる。

時が経ち、パーティーは終了。ちょっとした雑談が始まった。

「そだ。聞きたかったんだけど、なんでキートは旅してたの?」
「そ…それは…」
「教えてよぉ」
「…そんなに聞きたいか?」
「聞きたい聞きたい~。教えてくれないとわたし寝こんじゃう~」
「…しょうがない、教えるか」
「わ~い♪」
「じつはな…オレの両親、3年前に死んだんだ」
「ふぇ…?」
「交通事故でな。身寄りがあるわけでもなく、親族もいなかった。あるのは保険金だけだった」
「…」
「親父は旅行が好きだった。親父の保険金で旅に出る事が、せめてもの親孝行だと思ってな…」
「そう…だったんだ…」
「ま、今となっちゃあその保険金も底を尽きて、千夏の世話になってるわけだがな」
「でも…この前お母さんの話を聞いたときは田舎で元気に畑仕事をしてるって…」
「あれはとっさに出たウソだ…すまん」
「そっか…こっちこそゴメンね…こんな話させちゃって…」

そう話す千夏の眼には、涙が溢れていた。

「お、おい、千夏…」
「だって…キートのお母さん、あんなに明るいな人だったじゃない…死んじゃったなんて…そんな…」
「大丈夫だよ。姿は見えなくても、おふくろはきっとこの世界のどこかで生きてるさ」
「………うん、きっとそうだよね」

「そうだ。明日って、千夏の誕生日だよな?」
「ふぇ?…あっ!わわわ、すっかり忘れてた!」
「…まさか、明日もこの調子でパーティー♪…なんて言わないだろうな?」
「もちろんパーティー♪」

千夏の事だからやらないはずがないと思っていた。またパーティーか…。
えぇい、この際ヤケだ。明日もブチ砕けるぞ。

そのままオレは寝る事に…ならなかった。やはりウノである。
最初はまぁまぁおもしろかったが、いい加減他のゲームがやりたいモノである。
明日にでも直談判してみよう。ウノだらけのまま遅い時間までプレイしダウン。