じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり…カチッ。
おぉ!今日は目覚ましが速まってない!というのはウソ、しっかり8時40分になっている。
期待も虚しく起きたオレは顔を洗いに洗面所(脱衣所)のドアを開けた。
「きゃあ~!」
「おわっ!?」
一度ある事は二度ある。千夏が朝シャンする事をすっかり忘れていた。
またしてもタイミング悪く入ってしまったらしい。オレって幸運なんだな←ぉぃぉぃ
…あれ?今日も学校なんじゃないのか?8時40分ならもう登校している時間なのに…。
「もぅ~!入るならノックしてって言ったのに!」
「すまんすまん。ところで、今日 大学は?」
ドア越しに千夏に聞いてみる。
「ふぇ?だって、今日は海の日でお休みだよ?」
ふんがぁ!そういや今日は7月20日、海の日だったのだー!
「そっか。じゃあ今日は休みなんだな…」
「そうだよ。だ~か~ら、どこか遊びにいこ♪」
「…やっぱりか」
「やっぱり♪」
「どこに行きたいって?」
「海♪」
「…まさか海の日だから、とか言わないよなぁ…」
「あれ?わかっちゃった?」
「…で、どこの海に行くんだ?」
「えっと…わかんない」
「市民プールだな」
「え~?海行きたいよ~、う~み~」
「どこの海に行きたいかもわからないんじゃ、しょうがないだろ」
「はぁ~い…」
ちゃっかり市民プールに行く事になってしまった。ま、たまにはいいかな。
と、ここで衝撃的かつ重大な事実が判明した。
「千夏」
「ふぇ?」
「オレ、海パン持ってない」
「大丈夫だよ、ちゃんと用意してあるから」
「…はぁ?」
「はい。この中から選んでね」
出してきた物…それは、男物の水着。いわゆる海パン。それがズラっと並べられた。
も、もしや千夏には男装なんて趣味が…あるわけないか。気にせずにその中の1つを選ぶ。
千夏も支度を済ませていざ出発、家から20分程度で市民プールに着いた。
さっさと中に入って着替えを済ませ、千夏が出てくるのを待った。
(遅いな…)
「おまたせ!」
「遅かったな」
「ごめんね~」
千夏の水着姿を見たのは小学校以来だ。全体像をザラっと見てみると…
幼さの残る顔、小さな胸、妙に低い身長。これでスクール水着だったらただの中学生だ。
とても今日びの20歳には見えない。とするとオレはさしずめ引率の教師、もしくはたくましい先輩ってとこか。
「早く泳ごうよ~」
「はいはい…」
セオリー通りの水のかけ合いや泳ぎ競争などで遊びまくった。疲れたので少し休憩。
「…昔、キートとわたしと友達でプールに来たとき、おもしろい事があったよね」
「ん~?なにかあったっけか?」
「ほら、キートがみんなをビックリさせようとして溺れたフリをして」
「ん~…」
「そしたら救護員さんとか来ちゃったりして、プール中が大騒ぎになって」
「…オレ、そんなことしたっけか?」
「したよしたよ~。そのあと、救護員さんとキートのお母さんにこっぴどく叱られたよね」
「あ、思い出したぞ。あの事件のおかげでオレ晩飯抜きだったんだ」
「大変だったんだねぇ」
「あのときの腹の減り具合ときたらもう並じゃなかったぞ。サッカボール5つは入った」
「そんなにお腹空いてたのなら、ウチに来れば良かったじゃない?」
「迷惑かけちゃったんだから、そんなわけにゃいかん」
「そっか…ゴメンね、わたしがもっと気を使ってれば…」
「な、なに言ってるんだよ?千夏が謝る理由なんて全然ないんだぞ?」
「ううん…わたしが悪いの…」
「千夏…?」
「…」
「…そろそろ帰ろうか」
「うん…」
なんだか千夏の声に元気がなかった…何故だろう。昔の話をしたからか?
さっさと着替えを済ませたオレは、更衣室に入る前に千夏にこう言われていた。
「あ、わたし寄るところがあるから先に帰って待ってて!」
との事だ。どこに寄るのか…女のコは寄るところが多いからな、気にしない事にしよう。
命令通り先に帰ると、留守電が入っていた。
『もしもし、こちら吉牛の○○と申しますが、バイトの日程の件でお電話さしあげました。
さっそくですが明日の10時から4時までをお願いいたします。では』
なんだか要点ばかりだったな、しかも10時からだと。こっちの要望聞く耳持たずだな。
そうこうしていると、千夏が帰ってきた。手には丸い緑のシマシマの球体…スイカ!?
「海にいったらスイカ割りしようと思ってたんだけど、プールだったからできなかったしょ?だから買ってきたの」
「…まさか、室内でスイカ割りとかしないよな…」
「さすがにそれはしないよ、普通に食べるの」
「…よかった。千夏ならやりかねないからな」
「むぅ~」
「まぁまぁ」
そうか、千夏は夏が大好きだから、夏の食べ物も大好きなんだ。とくに甘い物が。
でもケーキって年がら年中食えるよな…ケーキには特に目がないんだな、多分(自信ありげに)
「スイカ切れたよ~、食べよ~」
「…なんだこりゃ?」
「スイカだよ?」
「形が…つみ木みたいになってるぞ…」
「食べられればいいの!早く食べないと全部食べちゃうよ!」
「…いただきます」
スイカを完食し、何気なく時計を見た。まだ午後4時、寝るには早すぎる。
…そうだ、レッカマンでも買いに行こう。簡単な準備をして出掛けようとしたが
スイカの後片付けをしている千夏に呼び止められた。
「あれ?どこか行くの?」
「ああ、ちょっくら本屋にな」
「じゃあわたしも行く!すぐ終わらせるからちょっと待ってて!」
後片付けをしている千夏を尻目にオレは出かけた。後ろから千夏が追いかけてくる。
「キート~、待ってよ~!…あわわわ」
「あ、あぶなっ」
オレの忠告の甲斐なく、千夏はすっ転んだ。マンガのようにステ~ンと転んだ。
「…うにゅ~」
「おいおい、大丈夫か?」
千夏の頭を軽くポンポンとはたいた。
「ふぇ~ん…キートのバカァ…」
「あ~悪かった、すまんすまん」
「…ケーキ」
「は?」
「ショートケーキ」
「…わかったよ」
「わ~い♪」
さっきの転んだ痛みはどこへやら、千夏はすっかり元気になった。わかりやすいっつ~か…。
本屋に到着。
「わたし、見たい本があるから」
「ん、またあとで」
一旦別れたオレはすぐさまレッカマンが陳列されている本棚へ行き、1冊を手に取った。
それを購入し、千夏を探した。どこにいるんだ千夏は…あ、いた。
「お~い、千夏~」
「…」
「千夏?」
「…」
「千夏!」
「ひゃあ!あ…キートかぁ。驚かさないでよぉ」
「だってオマエ、全然反応しないんだもん」
「あれ?そうだった?」
「…で、なにを読んでたんだ?」
「お料理の本だよ」
「ほぉ~。なにか作れそうか?」
「どれも簡単そうに見えるんだけど、作ってみると全然できないの…なんでかな?」
「もしかして、料理の根本的な解釈が違かったりしてな」
「…キートのイジワル…」
「はは、冗談だよ」
「キートはなにを買ったの?」
「オレか?オレはレッカマンだ!」
「レッカマン?」
「ああ。名前からしてダサそうだが、中身はとてもハマれる痛快爆笑コメ…って、千夏?」
「…」
「レッカマンがそんなにおもしろそうか?」
「…ふぇ?あやや、なんでもないよ」
「ふ~ん…ま、いいか」
帰り途中でオモチャ屋に寄り、人生ゲームを買っていった。ついでにケーキ屋でケーキも。
帰宅後 すぐに千夏が料理に取り組んだがあえなく失敗、やはりインスタント食品となる。
その夜、買ってきた人生ゲームに時間を忘れて没頭してしまい、気が付いたら深夜2時。
さすがにマズイと思いオレと千夏は寝床についた。