じりりりり…カチッ。現時刻8時20分。
やべぇ、確実に早起きになってんじゃねぇか。遅寝遅起きなんて当然の事だったのに。
今日はバイトだ、まだ時間があるんだからもう少し寝かせてくれたっていいのに…。
とりあえず身支度を済ませ、時間になるまでレッカマンを読む。
―そろそろ時間かな…出掛けよう。9時半に家を出て、10時前に吉牛に着いた。
「あの~、バイトの沢口ですが」
「へぇ…あなたが沢口くんね。私はあなたを指導する木下 美紀よ、よろしく」
「はぁ…よろしく…」
なんだか年上のタカビー系な人だな…この人に色々と教えてもらうんだろう。
まずは制服に着替えた。もちろん最初は皿洗いから始まった。
当面のバイトは皿洗いだと思う。簡単だが、異様につまらない。こんなもんか。
バイト終了1時間前に、試しに接客をさせられた。
初日で接客かよ!と内心至極ツッコミを入れつつも順調に仕事をこなしていると
見覚えのあるお客が威勢良く入ってきた。この背の低さは…千夏か?
「いらっしゃいませ…って、千夏か」
「むぅ~、わたしじゃ不満なのぉ?」
「や、別にそういうわけじゃ…」
「並1つくださ~い」
「千夏」
「ふぇ?」
「まだ学校なんじゃないのか?」
「今日は土曜日だから半日なんだよ」
「ああ、そういう事か」
「並1つぅ~」
「わかったわかった」
「あら…そのコ、沢口くんの知り合いかしら?」
「はい、昔からの幼なじみなんです」
こんな時に木下さんが…ややこしいなぁ。
「ねぇキート…このお姉さん、お店の先輩?」
「そうよ。沢口くんの指導役の木下 美紀って言うの。よろしくね、お嬢ちゃん」
「お、おじょ…えっと、わたしは杉本 千夏っていいます。こちらこそよろしくです」
なんだか千夏と木下さん、目と目が…火花でてないか?シットか?
遠まわしにオレ争奪戦になってたりして…嬉しいのかツライのか。困ったな、はっはっは。
「木下さん、そろそろバイト終わりなんですけど…」
「あら、もうそんな時間かしら。わかったわ、帰っていいわよ」
「お疲れ様でした」
「あぁ、それとバイトは毎週火、木、土曜の10時~4時、それでいいかしら?」
「ん~…はい、大丈夫です」
「ねぇ~、早く帰ろうよぉ」
「ちょ、ちょっと待ってろって」
バイト日程を聞き、帰宅準備をして吉牛を出た。
「キート、どこか寄り道しない?」
「…どこだよ」
「どこか~」
「…疲れてるんだ、早めにな」
「そうと決まればレッツゴー♪」
「…ぐったり」
手を引っ張られ、そのままズルズル引きずられていった。いたい。
「ここだよ!」
「ここ…って、東京タワーじゃねぇか」
「うん!」
「なんで東京タワーなんだ?」
「理由なんてないよ。キートと一緒に来たかっただけだもん」
「…は、早く入ろう」
「入ろ入ろ~♪」
さっさとエレベータに乗り、展望台に昇った。ぐったり。
「ふわぁ~…きれぇ~…」
「確かにな。80万ドルの夜景ってとこか」
「見とれちゃうなぁ~…」
「あぁ」
夜景に見とれる千夏の横顔…かわいい。何度も言うが、なぜ千夏にはカレシがいないんだろう。
夜景よりも千夏の顔に見とれてしまう、というのはこの際だまっておこう。
オレ達って、ハタからはどんな関係に見られているのかな。恋人同士…?兄弟…?
最近のオレの頭はこの事ばかりだ。千夏とオレ、どういう関係なのか。そればかりだ。
「キート」
「ん?」
「あそこ、行ってみたい」
「どこだ?」
「ほら、あれ」
「…ああ、お台場ね」
「あの観覧車、乗りたいよ~」
「この前ディズニーランド行ったじゃないか?」
「観覧車はなかったもん」
「でもなぁ…」
「連れてってくれないと…わたし、海に身投げするもん…」
「わかったわかった、観覧車な」
「うん!」
そのまま千夏の家に帰り、夕食を作る事に。
「千夏、オレが作ってみていいか?」
「ふぇ?キート、料理できるの?」
「やった事はないけどな、本を見ながらならできそうだから」
「とか言っちゃって、じつはわたしよりヘタなんじゃないの~?」
「やってみないとわからん!チャレンジあるのみだ!」
材料を用意し、料理を開始。10分程度で完成したのは肉野菜炒め。
見た目、ニオイはバッチリだ。今にもヨダレがでそうなくらいウマそう。
「できたぞ、食べろ」
「いっただっきまーす」
ふたり一緒に食べた。
「…おいしいね」
「…たしかにウマいな」
「なんでこんなにおいしく作れるの?」
「本の通りに作っただけだ」
「うにゅ~…わたし、料理のセンスないのかなぁ…」
「大丈夫だよ、練習すればうまくなるって」
「…うん、ありがと」
オレに料理のセンスがあった事がわかりつつも完食。美味。
食後に人生ゲームが始まり、延々と続いた…。おもしろいからいいんだが。
深夜まで続いた人生ゲームだったが、明日に備えて早めに寝る事にした。