はじめまして、私の名前は遠田 優。
二流の大学に通うごくごく平凡な大学生。
が、それはあくまで世間を欺く仮の姿。
夜ともなれば、この世の夜間生活を牛耳っていると言っても過言ではない、コンビニエンスストアのアルバイト店員に華麗に大変身!
でも、時給は750円。
深夜なのに…。
しかし文句は言ってられない。明日のメシを食うためにも、がんばって働かなければならないのだ。仕送りばかりに頼ってはいられないのだ。無駄遣いばかりしていてはいけないのだ…。
がんばれ私、がんばれ財布!
さて。
このバイトをしていると、接客商売なだけあって色々な人に出逢う。
深夜という特殊な時間帯であるが故に、本当に色々。
普通すぎて変な人もいれば、普通じゃなさすぎて変な人もいる。
あまり大きな声では言いたくないけれど、私の趣味は人間観察だったりします。
かといって大学で心理学を専攻していたりとか、そこまで興味はなくて、あくまでも趣味。
自分で言うのもなんだけど、私の人生は壮絶に平坦で、それこそ関東平野みたいに真っ平らで、神様に操られているんじゃないかと思うくらいに無難で事なき人生を送ってきました。
十月十日で安全にお母さんのお腹から誕生して、人並みに二足歩行ができるようになって、小学校でそれなりに友達ができて、中学校でソフトテニスの部活に入り、担任の薦めで入った高校で彼氏ができたけどキスより先に進む気配もなく別れ、担任の勧めで入った大学に入り、現在。
別に望んでいたわけじゃないけれど、もう少し波乱万丈あったっていいんじゃないかと思う。
例えば部活動の最中に怪我をして入院だとか、大学受験に失敗して浪人だとか、それこそ高校生で妊娠だとか、いや、あっては困るんだけど、そこは人のエゴというかジェラシーというか。
そんな人生を送ってきたからこそ、平凡な自分だからこそ、変わった人たちの(たぶん)変わっていたであろう人生を見ているような気分で、じつにおもしろい。
…変態って言うな。
まぁ、その変態気質のおかげでバイトが長続きしているのですが。
はてさて、今日はどんな人が来店するかな~?
ピンポーン。
来客を知らせるチャイムが店内に鳴り響き、裏方でのほほんとしていた私は表に出た。
やってきたのは、若い男性二人。一人は普通のシャツとジーンズ、一人は上下スウェット。
ものすごく仲が良さそうなんだけれど、親友じゃなくて、友達以上親友未満っていうか、ほぼ親友って言っていいんだろうけど、お互いの間に流れる微妙な空気だとか絶妙な間合いがそう思わせない原因だと思う。
お店に入ってから互いに一度も言葉を交わさず、それぞれライトフードを購入して退店。
そのまま帰ってしまうのかと思ったら、店先の駐車場の車止めに座り込んだ。ヒューマンウォッチャー的にすごく興味ある二人組だったので、ホッとしてしまったり…。
そして、お互いにライトフードを半分ほど食べたところで、スウェットさんがついに沈黙を破った!
「なぁ」
「ん」
間。
「悪かった」
「…謝ンなよ。みじめだろ」
「スネるなよ。―お前とは、一生友達でいたいんだよ」
「は?」
「真面目な話」
「…お前、よくシラフでそんなこと言えるよな」
「シラフじゃなきゃ意味ないだろ」
少し間を空けて、シャツジーンズさんはハ~ァと声に出しながら大きくため息をついた。
「な~んか、俺が悪モンみてぇだなぁ」
「バカ言え。そしたら俺は極悪人じゃねーか」
「まったくだ」
「うわ、ひっでぇ」
何の話だろう。でも、とりあえず仲直りしたみたいで良かった。今はもう、誰が見たって親友同士にしか見えないと思う。
今度は全然気まずくない沈黙が続き、二人とも全部食べ終えて、またお店に入って紙パックの飲み物を買って行った。車止めに座り直し、また沈黙。
「がんばれよ」
シャツジーンズさんが言った。
「余計なお世話だ」
「スネるなよ」
同じ手で返されたスウェットさんは、照れ笑いしながらシャツジーンズさんの肩をやさしく殴った。
「ひとつ、約束してくんねぇか」
突然神妙な面持ちでシャツジーンズさんが言い出して、スウェットさんも背筋を伸ばした。
「なんだ」
「…彼女の友達、紹介してくれよな」
「ンだよそれっ」
「バッカ、俺にはチョー重要な問題だっつの」
「わかったわかった、伝えとくよ」
「マジだかんな、ぜってぇだぞっ!」
「はいはい」
スウェットさんは楽しそうにあしらった。シャツジーンズさんも冗談半分なんだろうし。…たぶん。
それから二人はまたお店に入り、ビールやチューハイやおつまみをたっぷり買って帰った。今まで溜め込んでた分、ドンパチやるんだろうな。私も、そんな風に付き合える友達が欲しい。っていうか飲み友達が欲しい。
二人は中学校からの大親友で、高校も大学も同じ所に入学して、バイトも同じ所に入った。
でも、それがいけなかった。
二人とも同じバイトの同僚の女の子を好きになってしまい、勝手知ったる仲が災いしてか、彼女への想いを隠すでもなく伝え合うでもなく互いに感じ取り、そこから生まれた嫌な空気が互いの溝を深めていってしまった。
いつも一緒だった大学への登校もズラすようになり、バイトのシフトこそ同じだったが、それは双方で合わせているのではなく、彼女に合わせているためだった。
このままでは取り返しのつかないことになる、危惧したスウェットさんは勇気を出してシャツジーンズさんと話し合い、同時に告白することと決めた。
バイト帰りの彼女を二人で出待ちし、それぞれの想いを伝え、OKなら電話をして欲しい、と携帯電話の電話番号をメモした紙を手渡した。
返事はいつでもいい。迷惑だと思ったら言って欲しい、俺たちがバイトを辞めるから。
そして翌日の夜、スウェットさんの携帯電話が鳴った。
―ということらしい。
残念なのは、シャツジーンズさんがバイトを辞めてしまったこと。
気まずいのはわからないでもないけれど、すごくかわいそうで仕方がない。居たたまれない。
ただ、それでもなお友人でいられるのだから、二人は本当に仲が良いのだと思う。
お互いが家庭を持って、仕事が忙しくなって、二人で遊ぶ時間がなくなってしまったとしても。
きっと二人は、生涯親友同士なんだろうな。
親友ねぇ…。
私の親友は、内緒で読んでいる売り物の漫画雑誌かな…。