ピンポーン。
 ナイスミドルな夫婦がやってきた。
 旦那さんの方はフサフサでビシッと決まった白髪混じりの髪に、カジュアルなスーツ。
 奥さんの方は重役ばかりが集まった本気パーティの帰りのような、ピンクドレスに高そうなコート。
 入るお店をお間違えではないでしょうか?なんて聴きたくなってしまうほど、猛烈に場違いです。
 腕組んでるし。
 おしどり夫婦ねぇ。
 うらやましいとは思わないけど、幸せそうな姿にはちょっと憧れる。
 私、最近幸せだと思ったのいつだっけ。
 給料日は何回味わっても至高の喜びだけれど、幸せとは違う。
 しかも給料日を迎えるたび、次の給料日までの長さを考えて憂いまくってしまう始末。
 幸せか…。
 小さくても地味に幸せだと思えるのは、バイト明けのひとっ風呂だろうか。
 入浴剤なんて買えないし、水を詰めたペットボトルで嵩増ししたお風呂だけれど、私には十分に幸せ。
 …う~ん、そういう幸せでもないか。
 今一番味わいたい幸せは、宝くじが当たること。
 それ以外、私には何もいらない!
 だから、誰か私に宝くじを買うお金を恵んでください!
 はぁ…。
 外れたら一生後悔するだろうし、やめよ。
 というか老夫婦、こんな時間にあんな格好でコンビニなんて、どうしたんだろう?
 パーティ帰りにしてはお開きが遅すぎるんじゃないだろうか。
 明日も平日だし、幹部ばかりが集まったパーティだとしたらみんな明日があるだろうに。
 そうでないにしたって、不可解な点が多いことに変わりはなくて。
 それがコンビニのバイトのおもしろいトコロでもあり、ヒューマンウォッチャー的にもおいしいのだ。
 アルコールコーナーで焼酎と缶チューハイをいくつか選んでカゴに入れた老夫婦は、それをカウンターに置いた。
 その間もぴったりと離れることなく腕を組んだままの二人は、本当に仲が良いんだろうなぁ。
 精算が終わり、夫が袋を持ち、夫婦がお店を去る刹那の会話が聞こえてきた。
 「達彦さん、次はいつ会える?」
 「そうだな…。家内の出張も、そうそうあるわけじゃ―」
 二人は、お店を出て行った。
 …そりゃ、仲良しに決まってる。