ピンポーン。
痩せぎすで薄髪の、中年のおじさんがご来店。
見た目は普通なのだが歩き方が横柄なカンジ。
おじさんは辺りを物色しながらもパンコーナーに向かい、適当な商品を手に取ってパッケージ裏の印刷を見る、という行為を繰り返している。
メタボリックシンドロームが騒がれる昨今、カロリーでも気にしているのだろうか。
おじさんは一つのパンを手に取ると、それを持ってレジにやってきた。
「ちょっと」
やや不満げな声で声をかけられた。
「はい?」
「これ、賞味期限危ないんじゃない?」
「えっ」
接客業に携わる人間としてこんな反応は大変よろしくないけれど、かえって当然の反応か。
コンビニに限らずどこのお店もそうだろうけれど、賞味期限の管理は徹底徹底大徹底、切らすことなど絶対に有り得ないとさえ言えるのだ。
賞味期限切れの食品なんぞ売ってしまったものなら即営業停止、閉店のコンボだろう。
お客様は食品の安全を信頼して購入しているわけだから、ある種信用を売っているのと同義であり、信用を失うことは売り上げがなくなることにつながる。
もちろん、私の命にもつながる。
…た、大変だ。
「し、失礼しますっ」
おじさんが差し出していたカレーパンを受け取り、手早く裏返して賞味期限を確認する。
…。
「あの、お客様?」
「な? 危ないだろう?」
「いえ、あの…」
少し戸惑ったけれど、やっぱり言う。
「賞味期限、特に問題はないように思うんですけど…」
「いや、何を言ってるんだい、思いっきり危ないじゃんか」
「すいません、あの、どの辺が危ないのでしょうか?」
「見ればわかるだろう、製造年月日昨日だよ昨日、一日経ってるじゃないか」
あぁ、納得。
「じつはですねお客様、日付が変わったのはつい一時間ほど前でして…」
カレーパンの製造年月日は昨日、賞味期限は今日。
製造時間も期限時間も書いてあるけれど、おじさんには見えていなかったらしい。
「でも昨日は昨日だろう?」
「しかしですね、当店は二十四時間営業なので、時間単位で管理をしてまして…」
「あぁ、なるほどそうか。こりゃスマン」
やっと納得してくれたおじさんは素直にパンを棚に戻した。
確かに時間での管理は面倒だけれど、おかげでお客様に安全でおいしい物を届けられるのなら多少の苦労は覚悟の上である。
おじさんは今度はお菓子コーナーに行き、先ほどの繰り返し作業の中からポテトチップスを持ってレジにやってきた。
「これはさすがに危ないと思うんだけど」
と、最初から裏面を向けて私に手渡した。
賞味期限は半年も先である。
「えと、これは…?」
どこら辺が危ないんでしょう。
「ポテトの原料ってじゃがいもだろう? 野菜ってそんなに持つもんかね」
「えぇと、専門的なことはわからないですけど、たぶんもう加工してあるのですぐに痛みはしないかと…」
「あぁ、なるほどそうか。こりゃスマン」
おじさんはやっぱりあっさりと食い下がってポテトチップスを棚に戻した。
ハメられてるんだろうか…。
次におじさんはアイスコーナーに向かうと、興奮した表情で最初に取ったカップアイスをレジに持ってきた。
「ちょっとちょっとコレまずいでしょ! 賞味期限書いてないよ!」
…アイスには最初からありません。