この作品には、空想上ではありますが前身にあたる作品があります。
タイトルは『ボクは時計の12物語』。
主人公の時計の12クン(時計の"12"が意思を持っている設定)が、そこから見える世界について何か語らうという内容になる予定でした。
あんまりファンタジー過ぎて成り立たなそうだったのでやめましたが。
そうですね、この作品に置き換えるならば、主人公がコンビニの壁にかかっている時計の12クンで、遠田さんはあくまで登場人物の一人に過ぎないってカンジです。
それはそれで一話くらい読み切りで書いてみるとおもしろいかもしれないですね。
主人公が時計ってどーよ、人間味ねーよ、っていうかなんだよ時計の12クンってブツブツ…
というわけでおひさしぶりです、レートです。
正式なあとがきとしては『続・千夏の夏』以来、およそ2年8ヶ月23日ぶりです。
あっという間な気もしますし、長かったような気もします。
実際、今回の作品は第一話から完結まで約半年というスピード執筆でしたが、新社会人の歩みとともに書き募っただけあって感慨は他の作品並に深いものがあります。
実生活でも執筆中でも思うところはたくさんあり、我ながら大変勉強になった作品でしたが、それについては順を追って書き出していきたいと思います。
どうでもいいですが、新デザインになってから初めてのあとがきなので書きにくい…。
この小説を書こうと思ったきっかけは。
深夜、セーブオンの駐車場のコンクリの車止めに座ってシン・トー パッションマンダリンを飲んでいた時、アーティストも曲名も忘れてしまいましたが、店内から漏れ聞こえてくる有線の音楽が、なんとなく切なかったからです。
説明になってませんが。
当時作者は学校を卒業して、会社に就職するまでの猶予期間でした。
学生生活のホントに最後の最後、やるなら今しかない、でも何をしたらいい、そんな複雑な時期でした。
そんな時に聴こえてきたあのBGMがなんだかすごく切なくて、あぁ、書きたい、と思ったのがきっかけです。
それがきっかけで書いたのは、今作48話にも登場した『冬の空と雪椿』の念願節なんですけどね。
その話を書いていてふと、こんなシーンをずっと定点観測していたら楽しいんじゃないか、12物語とコラボレーションさせたらおもしろいんじゃないか、ということで思い付いたのが今作です。
より身近に感じられるよう主人公を12クンではなく店員にして、本来主人公である店員は客とはあまり接さずあくまで定点観測に徹させる予定でしたが、書き終わってみるとメチャクチャ関わりまくっちゃってました。
それはそれで良かったのかもしれません。
と、きっかけはこんなものですが。
きっかけとは別に、この作品が目指した文書構成というものがあります。
『ショートショートショート』。
ショートよりも短く、ショートショートよりもさらに短く、ショートショートショートに一話をまとめ上げることを目標に書いてきました。
『千夏の夏』において、短くてテンポがよく読みやすい、という声を賜ったことがありまして、近頃の拙作は肉付きたっぷりボリュームの物ばかりだったことを思い返し、固定概念に囚われず思い切ってザックリ短くしようと思ったんです。
ちょうど作品の設定とも折り合わせやすかったので、執筆側としても気軽に書けて楽しかったです。
一部思いっきり目標を逸脱した話が何度かありましたが、おおむね達成できたように思います。
ちなみに明確な目標設定で言いますと、1ファイル10KB未満。
話によっては1KBに満たないものもあります。
書いていて思ったことは。
きっかけだの設定だの文書構成こそ色々と決めてみましたが、実際に書いている間はそんなのほとんど気にせずチョーお気軽に書いていました。
第一話はさすがに礎となるものなので気を遣いましたが、そこで地ができちゃったのであとは思いつくままに指が動くままにただひたすら書きました。
もちろん時折詰まることもありましたが、そういう時はムリに書かず、書きたくなったらまた書けばいい、というスタンスで。
気軽だったからこそ、おもしろい珍客を適当に登場させてただおもしろおかしくやっていくつもりで書いていました、最初は。
振り返ってみると、客の出番はメッキリ減っちゃって。
主人公遠田 優の意見発表会になってしまいました。
当初、主人公が貧乏で自分を普通だと思い込みまくっているという設定はありませんでした。
第一話でおもしろいだろうからと思い付いて適当にくっつけた設定です。
いやはや、おかげで本当におもしろくなりました。
反面、大変なことにもなりました。
―ちょっとマジメな話になりますが。
作家というものはある種の多重人格者で、多少の限界はありますが、自分の作品に登場する人物になり切っているものと思います。
こんな性格で、こんなシコウで、こんなことを考えている。
時にはその人物が自分の信念と全く正反対だったり、性別だって、国籍だって異なっている場合もある。
独自の作品の昇華のため、どんなに憎たらしい人物でも、より一層なり切ろうとするのも自然なことでしょう。
しかし、どんなに個性豊かな登場人物が現れたところで結局、出所…つまり作者は一人でしかない。
どこかしらで作者の思念を吐露してしまう部分があるはずです。
意図的にそうしている人もいるでしょう。
今作の作者は後者です。
主人公の遠田 優は、作者の代弁者だと思って構いません。
もちろん作者はあそこまで貧乏ではないので異なる思想もありますし、必ずしも全てが作者の考えと一致するわけではありません、仮にも架空の人物なので。
しかしそれでも、彼女の考えることを書いているのは作者で、ひいては作者の考えと取られても不思議でない。
突然ですが、作者は変人です。
シコウがちょっと一般大衆より捻じ曲がっています。
普通ならそうなるだろ、というところで素直にいかないパターンが頻発する人です。
そんな作者だからこそ、なんとなくですが、常に思っていることがあります。
『普通って、なんだろう?』
それは常識という言葉だったり当たり前という言葉だったりもしますが、誰しも心の中に"普通"があると思います。
都会のエスカレータでは左に立つのが普通だと思っている方が大半でしょう。
実際アレ間違ってます、エスカレータに良くないし意味わかんないです。
でもそれが普通。
普通じゃないことをすると目立つし、白い目で見られるし、いじめられるかもしれない。
普通なことをしていれば衆目に置かれることもないし、話題の共有だってできる。
日本人の国民性というものはやっかいで、出来るだけ他の人と同じでいたいと思ってしまう。
でも、ちょっと待とう。
その行動は、そのシコウは、自分で考えた結果ですか?
こうすれば良かれと思ってしたことですか?
国民性という言葉を盾に、流されてしまってはいませんか?
間違っていることでもみんながやっているなら大丈夫。
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
…怖いです。
作者は非常に怖いです。
みんなで渡ったって、最後尾にいてたまたま自分だけ轢かれたら。
普通とは、何か。
そんなことを考えながら、あらあらと言う間にここまで来てしまいました。
登場人物は。
レギュラー出演(当たり前)の主人公遠田 優と、五話に渡って登場した破格の扱い不精髭男さん以外に固定キャラクターはいません。
複数話(2話以下)に渡って登場したのは、アイスクリーム親子、スウェットさんだけでした。
漢字表記のフルネームを持つのは、小此木三葉チャンだけかもしれません。
登場人物といえば、人物の出現に関して以下の制約を設けていました。
1. 来客は一組限り
2. 同時に二組以上の来客を登場させない
この"組"の定義が曖昧ですが、まぁ簡単に言えば全く無関係なサラリーマンとおっさんが同時に店内にいることはないし、店内が混雑でゴッタ返しているなんてことは有り得ないような設定です。
例を出すと、4話で3人組より後から来たホストは見知った顔ということで一組扱いです。
全く関連性のない人物が出てきちゃダメ、ってこと。
やっぱり曖昧ですが。
お昼のコンビニでそんな状況は有り得ませんから、深夜ならではの要素を盛り込んでみたかったのです。
その制約のおかげで書けなかった話もあったのですが、野望の達成のためならと切り捨てました。
あわよくば特別編として別枠で書いてみるのもおもしろいかもしれないですね。
何が野望だよ、制約はちゃんと守れよ、っていうか制約自体意味わかんねーよブツブツ…
反省点は。
全体的に似たような話が多かったと思います。
またお涙頂戴かよ、と思った人も多いかもしれません。
私はこういう堂々巡りの展開を"GTOタイプ"と読んでいます。
床屋で待ち時間の間に床屋文庫の漫画『GTO』の適当な巻を取って読んでいたことがあるんですが、適当に取ったはずなのにどの巻でも誰かしら屋上から飛び降りていました。
"またかよ!"
↑この言葉が出たら、それはGTOタイプです。
今後はもっとオリジナリティを出して、出来るだけカブらないようにしていきたいです。
ベタベタな恋愛小説だとネタがカブりやすいので…。
あと、登場人物の年代が全体的に低かったかもしれません。
といっても実際深夜にそんなご年配の方がコンビニに来ることはあまりないだろうし…。
じゃあ子供だってさすがにこのご時世でもこんなに来ないんじゃね?
うーん…。
加えて反省。
コンビニの内部事情がわからないのでほとんど想像で書いてしまいましたゴメンナサイ。
コンビニバイト経験者の方、間違いがありましたら指摘お願いします。
テーマは。
いつもの定番、今回のテーマもあとからくっ付いてきました。
今作のテーマは『普通』。
サブテーマは『貧乏』。
テーマ付けする意味も感じないほどシンプルなテーマですが、じつはすごく核心的なテーマです。
上述しましたが、この作品は全てにおいて"普通"がキーワードとなっています。
普通である中に、普通でないものがやってくる。
普通でないものは普通であるものにどう思われるか。
果たしてその普通は普通なのか。
考えさせられました。
私生活の中で、社会人として都会で暮らす中で、自分の言動が周囲と同調しない場面がありました。
自分では普通だと思っていたのに、全然普通ではなかった。
繰り返しになりますが。
『普通って、なんだろう?』
遠田 優は作者の代弁者でもあり、"普通"の塊、"普通"の結晶、"普通"の体現者でもありました。
遠田 優の名前の由来は。
「私はこう考える。では、あなたは?」
その「あなたは?」を英語に訳した「and you?」が由来です。
アンドユー → エンダユウ。
非常に胡散臭くて取って付けたような由来ですがまさにその通りです。
本当は語呂と思い付きで決めました。
でもまぁこじ付けとはいえ結果オーライではないかと思います。
そもそも英訳が合っているとは思えないし、適当でいんじゃないッスかね(棒読み)。
タイトルの意味は。
実在するテレビゲーム、ザ・コンビニから盗用しました。
半分ウソです。
シンプルなタイトルにしたかったのですが、さすがに『コンビニ』だけだと侘しすぎるので…。
ただ、もしこの作品に続編ができたら『ザ・コンビニ2』『ザ・コンビニ3』とパクり大行進になってしまうのでシリーズ化は諦めました。
雑感は。
何だかあっという間でしたが、ザ・コンビニもこれで終わりです。
Pentium4よろしく100話くらいまで続けるつもりでしたが、開始直後に30話くらいが限界だろうなと現実の厳しさを教えられ、しかしあれよあれよと50話。
キバってもっと続ければよかったかもしれませんが、引き際も大切です。
惰性でだらだら続けても作者の妄想力ではマンネリとGTOタイプの繰り返しになってしまうでしょう。
こんな拙い作者レートのコンセプト作品に最後まで付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
やっぱり短編は楽しいなぁ、と不謹慎ながら再実感しました。
まだラジオも全然終わってないのにね。
そして、拙作を読破くださった皆様に、一つお願いがあります。
今後コンビニに赴く機会がありました際はぜひ、店員さんにやさしくしてあげてください。
あるいは、思いっきり迷惑をかけてやってください。
それはもう、観察対象になってしまうくらいに。
最後は。
皆様に、質問です。
作者から遠田 優を通して述べたもの、ひいてはこの作品全体が、作者の考える"普通"です。
では、あなたは?
2007年9月24日 レート