あれから一年が経った、寒い寒い冬の北海道。例年よりも降雪が早く、12月初旬で外は真っ白です。
それでも花火はなんら変わる事もなく、今日もだるそうに学校へ向かいます。早起きなんですけどねぇ。
「ほな…行ってきま~す…」
おや?今日の花火はいつになく元気がありませんね?脱力から来る元気の無さとはちょっと違うようですが…。
しばらく歩いている内、あの十字路に差し掛かりました。ここに来ると花火はさらに元気がなくなってしまいます。
やっぱりあの事があるからなんでしょうか…。手をブラ~ンと垂らし、とぼとぼと歩き出しました。
…学校に到着しました。昇降口から校内に入り、いつもの教室の自分の座席にどっかりと座りました。
席に着くなり大きな溜め息を吐き、ベタ~っと机に倒れ込みました。そしてうとうとと眠ってしまいました。
眠っている間、花火は夢を見ていました。その内容は定かではありませんが、とても楽しそうです。
…昼休みになりました。周囲のかすかなお弁当のニオイに反応し、目を覚ましました。
「ん~…椿ぃ~?」
寝ぼけた花火が隣の席を見ましたが、そこには誰もいませんでした。
「……そか…おらへんねや…」
これにより花火の脱力度がさらに上昇してしまい、学食へパンを買いに行くのもおっくうになってしまったのです。
再度眠りかけていた花火にクラスの男子一人が声をかけてきました。
「よぉ煎御谷、どうした?」
「なんやぁ~…」
「近頃元気ねぇからなんかあったんかな~と思ってよ」
「別にぃ~…なんもあらへんでぇ~…」
「俺にはそうは思えないけどな」
「そうかぁ~?」
「失恋でもしたとか?」
「そうやもしれへんなぁ~…」
「なぬっ!?お、おい!マジかよ!?」
「ワイは寝るでぇ~…おやすぅ~…」
さっきあんなに眠ったにも関わらず花火はイビキをかいて眠ってしまいました。よくそんなに眠れますね…。
…放課後になりました。ヒョ~イとカバンを持ってヒョ~イと席を立ってヒョ~イと学校を出ました。
朝でもあれだけだるそうに歩いていた花火なのに、帰りはさらにだるそうに家を目指して歩いています。
そしてまた、あの十字路に差し掛かりました。ポケットに手を突っ込みながら花火が見ていた先は…
いつも椿がやってきていた道。その方向からいつも椿はここで花火を待っていたのです。
でも…あの日以来、ここに椿がやってくる事はありません。花火はただ、その道を見つめていました。
「…ん?」
しばらくその道を見つめていた花火が、向こうからこちらに向かって走ってくる少女に気が付きました。
その少女の姿がだんだんと近くなり、花火の前でピタッと止まりました。見覚えのある、耳当てをした少女…。
「花火くん……ただいま…」
「つ…、つば…き?椿か?お前、椿なんか?」
少女はこくっと頷きました。
「な…なんで…ここ、おるんや?」
「え…?」
「おとんの仕事の都合で栃木戻って、それでなんでここにおるんや?」
「来年の冬…戻ってくるって……言わなかった…?」
「は…初耳や…ワイ、全然知らんかったで…」
「……ごめん…」
「ん~…まぁええわ。とりあえず…」
花火はそう言いながら、椿をぎゅ~っと強く抱きしめました。
「よぉ帰ってきたな。椿」
「花火くん…」
抱きしめられたのが嬉しかったのか、椿は少しだけ花火を抱き返しました。
…しばらくして身体を離し、2人は顔を赤らめてちょっと恥ずかしそうです。
「あ…花火くん…」
「なんや?」
「えと…」
急に椿が自分のカバンをゴソゴソと探し始めました。中から取り出した物は、見覚えのあるお弁当箱でした。
「はい…お弁当…」
「…作ってきてくれたんか?」
「花火くんの好きなおかず…いっぱいあるから…」
「でもなぁ…今すぐ食いたいんやけど、ここじゃムリやし…」
「花火くんの家じゃ…ダメ…?」
「ワイの家か?」
椿はこくこくっと二度頷きました。
「いや、おかんおるしな…」
「……ダメ…?」
「…ええぃ!今日は無礼講や!ワイの家でもどこでも行ったろうやないか!」
良い返事をもらった椿の顔はパァっと明るくなり、こくっと深く頷きました。
そして2人は花火の家で、思い思いの時を過ごしました。