…翌朝。

「ん…」

いつもなら唯がフレイを起こすはずだが、今朝はフレイが自然と目を覚ました。

「唯…珍しいな、まだ寝てるなんて」

唯の寝顔を見て、フレイが反応してしまう。

(なんだ、この気持ち…胸が苦しくて…押し潰されそうだ…)

「う…ん………ふぇ…?フレイさん?」
「唯…起きたか…」
「えと…あ、ごめんなさい、寝坊してしまって…」
「やっぱり疲れてたんだよ」
「すぐに朝ゴハンの用意をいたしますね」
「あぁ、すまないな」

朝食をとり、今後の予定を話し合う。

「どうしようか、これから」
「はい…」
「手がかりは博物館のあの絵にある…俺はもう一度あれを見にいってくる」
「わたしも行きます」
「唯も…?」
「あの絵を見た瞬間に…なにかが頭の中で見えたんです…」
「なにかって?」
「それがよくわからなくて…だからもう一度、あの絵を見なければいけないんです」
「…よし、わかった」

二人は再度あの博物館へと向かう。

「唯…大丈夫か?」
「はい…」
「なにか見えるか?」
「…曖昧ですが…なんとなく」

(これもヒーラーの影響なのか…?ヒーラーの力なのか?)

「あ…」
「見えたか?」
「ここ…虻谷の森…」
「虻谷の森?」
「…遺跡…ガーデン…」
「ガーデン?」
「見える…見えます…ガーデンが…」
「なんなんだ、ガーデンって?」
「…」
「どうした?」

唯が苦しそうな表情になった。足の力が抜け、雪崩れるように座り込む。

「唯、大丈夫か?」
「はい…なんとか…」
「無理はしない方がいい。宿に戻ろう」

宿に戻る。

「なんなんだ、ガーデンって?」
「たぶん…虻谷の森にある遺跡の名前だと思います…」
「その遺跡は一体?」
「…わかり…ません…」
「唯…?」

かすれた声のあと、突然唯が泣き出してしまう。

「なっ…ゆ、唯、どうしたんだよ?」
「夢を見るんです…怖い夢を…」
「夢…?」
「世界が滅んでしまう夢…博物館で気を失って以来、眠りにつくと…必ず…」
「世界が…滅ぶ…?」
「不安なんです…どうしてこんな力があるのか…どうしてあんなものが見えたのか…」
「…」
「不安で…不安で胸がいっぱいになって…わたし、怖いんです…」
「唯…」

唯があまりにも弱々しく、悲しげに見えたのだろう。フレイは唯を抱きしめた。

「ふわっ…」
「唯…泣くな。俺が守るから…絶対に守るから…だから…泣かないでくれ」
「フレイさん…」

しばらくその状態が続いた。

「…落ちついたか?」
「はい…」
「そっか」
「ごめんなさい…」
「謝らなくてもいい。無理はするな」
「でも…」
「不安なら、人に甘えてもいいんだ。人は一人じゃ生きていけないんだから」
「…ありがとうございます…」
「ん」
「あの…」
「なんだ?」
「もう少し…こうしていてもいいですか?」
「…あぁ」

フレイが唯を抱きしめたまま、刻々と時は流れてゆく。

「…なぁ、唯」
「…」
「唯?」
「…」
「ね、寝てる…まいったな、このままってわけには…」

なんとか唯を身体から離し、布団に寝かせる。

(色々と溜めこんでたのが一気に出たんだろうな…よく寝てる)

…時は深夜。

「フレイよ…」
「ん…コラ、炎命。いい加減に目を覚ませ」
「今はそれどころではない。邪気を迎え撃て」
「またかよ…いつになったらまともに会話できるんだ、ったく…」

唯に気付かれぬように屋外へと出て、辺りを見まわす。遠巻きに巨大なバケモノの姿があった。

「ひさびさのモンスターか…」
「ちゆノショウジョ、ワタセ」
「誰がはいそうですかと渡すもんか!」

モンスターのパンチにカウンターで斬りかかった。急所を突き、モンスターは一撃で倒れる。

「あれ…?なんでこんなに弱いんだ?」
「獣が弱いのではない、汝が強くなったのだ」
「そうなのか…って、炎命。前の話の続きだ」
「…」
「炎命…?」
「…」
「お~い、炎命ちゃ~ん…」
「…」
「はぁ…なんですぐこうなるかな…」