「フレイさん、朝ですよ。起きてください」
「ん…?」
「フレイさん、起きてください」
「ん…わかった…」

と言いつつふとんにくるまるフレイ。

「もぅ、仕方がありませんね。えぃ」

ふとんを剥ぎ取る唯。

「ぐっ…寒い…」
「フレイさん、朝ですよ」
「ん~、もうそんな時間か…」

朝食をとり、準備を済ませ 出発。目指すはユニオンパース、通るは虻谷の森。

「…」
「どうした?」

唯がじ~っとフレイを見ている。

「フレイさん…背、高いんですね」
「そうか?」
「ずっと横になられていたのでわかりませんでした」
「自分の身長なんて気にした事なかったな」
「じゃあ…血液型は?」
「知らない」
「誕生日は?」
「覚えがない」
「好きな食べ物は?」
「うまいもの」
「…」

唯があっけらかんとした表情を見せる。

「俺、おかしいか?」
「いえ…そういうわけでは…」
「自分にも、他人にも。興味なんて全くないんだ」
「それ、なんだか悲しいです」
「悲しい?」
「うまく言えないのですが…人は人を知りながら成長していくものなんだと思います」
「…」
「あ…ごめんなさい。変なこと言ってますね、わたし」
「いや、いいんだ」

…到着、虻谷の森。

「ここが虻谷の森です」
「ん~…思ってたよりもこじんまりとしてるな」
「入り口がそう見えるだけで、中はとても広いですよ」
「よし、入ってみよう」
「はい」

枯葉混じりの樹木。葉の間から溢れる日差し。肌寒さを感じる空気。その風景は秋を思わせる。

「かなり入り組んでるんだな」
「この森は迷いの森とも呼ばれていて、一度迷うと抜け出るのは大変です」
「なんで唯はこの森の道を熟知しているんだ?」
「わたしの父と一緒によくこの森を通ったんです。通り抜ける道以外はわたしもわかりません」
「なるほど。唯の父親は?」
「何年か前に事故で…」
「…母親は?」
「わたしが生まれてすぐに病気で…そう父から聞いています」
「大変なんだな…」

ガサガサ。

「きゃあっ!」
「ん?どうした?」
「今、なにかが通ったような…」
「そうか?」
「あ…フレイさん、あれ!」
「あれ?」

唯の指差す方向に向くと、そこには身の丈2mはあろうかという巨大な人型の獣が立っていた。

「なっ!?モンスターがなぜこんな所に!?」
「ちゆノショウジョ、ワタセ」
「治癒の…少女?」

モンスターが襲いかかってくる。

「くっ!お前なんざ、俺の剣で………あれ?剣が…ない?」
「フレイさん、危ない!」

モンスターの大振りのパンチをフレイは軽い身のこなしで容易に回避した。

「唯!逃げるぞ!」
「は…はい」

フレイは唯の手をひき、走った。

…逃走は成功。だが、無我夢中で走っていたため、道に迷ってしまった。

「はぁ、はぁ…あれ…?ここ…どこだ…?」
「…迷ってしまいましたね」
「一体なんだったんだ、あのモンスターは」
「わたしはよくこの森を通るのですが、あんな事は初めてです」
「とにかく この森から出よう」

アテもなくただ道なりに歩いていると、妙な遺跡に辿り着いた。

「なんだ、ここ?」
「わかりません。でも…なんだかなつかしい気がします」
「…俺もなんだ」
「え?」
「俺も、なんだかなつかしい気がするんだ」
「なんなのでしょう、この遺跡は…」
「今は森を出る事が先決だ、道草を食ってる場合じゃない」

歩き進んで数時間、森の出口が見えてきた。

「ふぅ…無事に抜けられましたね」
「今日はあきらめようと思ったが、運がよかったな」
「そうですね」
「あれがユニオンパースか?」
「はい」

遠巻きから観たユニオンパースの全景。円形の湖を囲うようにあらゆる建物が建てられている。
湖の中央に位置する半壊の塔が象徴的だ。

「中心にある壊れかけた塔はなんだ?」
「あの塔は以前は時計塔でしたが、旧大戦時に敵の攻撃で時計部分は倒壊。今に至っています」
「修理しないのか?」
「えと…そこまではわたしも…」
「ん。それにしても大きな街だ。これでペンダントなんて見つかるのだろうか?」
「探す前からあきらめてはいけません。何事も行動あるのみ、ですよ」
「…そうだな」

ユニオンパース北門へ到着。

「これが…入り口か?」
「はい」
「…でかいな」
「街が大きい分、警備も万全でないといけませんから」

中に入ろうとすると、警備兵に呼び止められた。

「そこの二人!通行証は持って…こ、これは唯殿、失礼いたしました。どうぞお通りください」
「いつもご苦労様です」

本来ならば通行証が必要だが、なぜか唯の顔パスで通行できた。

「…唯、どういうことだ?」
「少しなじみがあるだけですよ」
「?」

街内部に入るとその大きさがひしひしと伝わってくる。
人の多さ、建物の多さなどが見ず触れずして伝わってくる。

「ユニオンパースは4つの区画に分けられているんです。
1つ目は移住区。ユニオンパースの住人の大半がここに家を持ち、生活しています。
2つ目は商業区。食料や雑貨、日常生活に必要な物など、様々な商品が軒を連ねています。
3つ目は管理区。主に貴族が暮らしていて、ユニオンパースを統治している方も暮らしています。
4つ目はスラム。住む場所を失った方が集まって生活している区画です。闇市などもあるそうですが…」
「なるほど」
「あの…少し寄りたい場所があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん、俺は一向に構わないが」
「すいません」

向かった先は管理区の一角にある大きな館。

「…なんだ?ここは」
「ユニオンパース統治長のお屋敷です」
「こんなとこに用があるのか?」
「少しなじみがあるだけですよ」
「?」

館の門から現れた、白ヒゲを生やした老人。

「おぉ~!唯ちゃん、ひさしぶりじゃの~!」
「お久しぶりです、シフネ統治長」
「そんなかたっ苦しい呼び方はやめじゃ!いつも通り『オジさん』でええわぃ!」
「ふふ…そうでしたね、オジさま」

(な、なんなんだ?老人といい、唯といい、この親しい仲は…)