「なるほど。唯の父親と統治長が友人同士で、唯もよくここに来てたんだな」
「はい」
「厳重な警備を顔パスで通れたのはこういう事だったのか…」
「あれはオジ様の計らいなんです」
「スゴイな…」

「さて、唯ちゃん。ここに足を運んだという事は、なにか用があるのじゃな?」
「今日はオジ様にお願いがあって来ました」
「ほぅほぅ、唯ちゃんの頼みならなんでも聞くぞぃ」
「ペンダントを探していただきたいのです」
「ペンダントぞな?」

(唯がここに来たのは、ペンダント探しを依頼するためだったのか…)

「ちょっとした事故がありまして、川に流されてしまったんです」
「川というと、スティールリバーじゃな?」
「はい」
「ユニオンプールに流れているはずじゃが…大きさがペンダントともなると見つけるのは難しいのぅ」
「そうですか…」
「じゃがこれも唯ちゃんの頼みじゃ!ワシの自慢の捜索隊でなんとしても見つけようぞ!」
「感謝いたします、オジ様」
「い~のい~の♪」

「すまないな、唯。俺のためにわざわざ」
「お気になさらないでください。見つけるなら早い方が良いですから」
「…やっぱりアンタ、変わってるよ」
「?」

「二人には宿屋を用意しといたぞ、ゆっくり休むと良い」
「ありがとうございます、オジ様」

屋敷から出ようとすると、シフネ統治長がフレイを呼び止めた。

「あぁ、それと、フレイと申したかな」
「ん?」
「ちと用があるでな。あとで遣いの者をまわすが、よろしいかの?」
「…わかった」

(統治長が俺に用事?なんの用だ?)

二人はとりあえず宿に入る事にした。

「お、唯ちゃんじゃない。ひさしぶりだねぇ」
「今日もお世話になります、オバ様」
「え~っと、唯ちゃんと連れの男の方で…二部屋だね」
「いえ、一部屋でお願いします」

唯の驚くべき行動に、フレイは間髪入れずにツッコミを入れる。

「ゆゆゆゆゆゆ唯、ちょっと待て」
「はい?」
「俺は野宿しろって事なのか?」
「違いますよ?」
「だって、一部屋ってことは…」
「わたしとフレイさんで一部屋です。なにか不都合がおありですか?」
「いや…不都合というか…」

「唯ちゃん、ホントに一部屋でいいのかい?」
「はい。お願いします」
「それじゃ、いつもの部屋を使ってちょうだい」

いつもの部屋へと向かう。

「なぁ…唯」
「はい?」
「なんで同室にしたんだ?」
「やっぱり…イヤ、ですか?」
「そ、そうじゃなくて、普通はそっちが嫌がるもんだと思うんだが」
「そうなんですか?」
「…」
「あまり部屋を多く借りてしまうと、オバ様に迷惑ですから」
「いや…でもさ…」
「?」
「…もういい」

宿に入ったとはいえ、寝るにはまだ日が高すぎる。

「フレイさん」
「ん?」
「街、歩きません?」
「どうしてだ?」
「久しぶりに来たので、ちょっと見て周りたいと思いまして」
「俺は遠慮する、一人で行ってくればいい」
「…そう…ですね…」

唯の声が極端に小さくなった。

(ん…ひどい事を言ってしまったな…)

「やっぱり俺も行く」
「え?」
「俺も街 見てみたくなったんだ。唯には世話になってるし、護衛の1つもしないとさ」
「…ありがとうございます、フレイさん」
「さ、行こう」

目的地、商業区。

「出店っぽくなってるのか。イメージと違ったな」
「…」
「下町の味が出てるよな、ここらへんって」
「…」
「買い物だけじゃなく雑談目的の客も多いみたいだし」
「…」
「唯?」
「はい?あ…ごめんなさい。わたし、お買い物をしているとつい夢中になってしまって…」
「ん…まぁ、こんなに安ければ夢中になってしまうのもわからなくはないが」
「同じようなお店がたくさんありますから、競争も激しいんです」
「なるほど」

その後、二人は問題の湖『ユニオンプール』へと向かった。

「…でかい…」
「街部面積よりも湖の面積の方が広いですから」
「骨が折れるなぁ…」
「オジ様の捜索隊もすでに探してくださっていますね」
「見つけてくれるといいんだが…」

…日も暮れ始め 宿に戻ると、シフネ統治長の遣いの者がやってきていた。

「あなたがフレイ様ですね?」
「あぁ」
「シフネ統治長がお呼びです、お屋敷までご同行願えますか?」
「統治長から言われてたからな。行くに決まってる」

到着、シフネ邸。

「フレイよ、よくぞまいった」
「統治長なんかが俺になんの用だ?」
「じつはの…渡したい物があるんじゃ」
「渡したい物?」
「お~い、例の物を持ってこ~い」

奥から持ち込まれた、鞘に包まれた1本の両刃剣。目には見えない無気味なオーラを感じる。

「これは?」
「魔剣『炎命』じゃ」
「どうしてこれを俺に?」
「ユニオンに来る途中、虻谷の森でモンスターに襲われたそうじゃな」
「あぁ」
「…ついにこの時がやってきたのじゃな」
「どういう事だ?」
「詳しい事は言えないのじゃ。素直に受け取ってほしい」
「…」

フレイは剣を受け取るが、イマイチ腑に落ちないといった顔をしている。

「お主の眼を見た時、ワシは確信したんじゃ」
「俺の…眼?」
「どうか唯ちゃんを、唯を守ってほしい。お願いできるかな?」
「なんだかよくわからないが…あいつには世話になってる、それぐらいの恩返しはするつもりだ」
「うむ。頼んだぞ、フレイよ」

フレイは宿に戻った。

「おかえりなさい、フレイさん」
「お、おかえりって…」
「オジ様はなんと?」
「…これを預ってきた」
「それは…剣、ですか?」
「これで唯を守れ、そう頼まれたんだ」
「わたしを…?」
「それ以外の事は聞かされてない」
「…なんだか、イヤな予感がします」
「イヤな予感?」
「オジ様が直々に頼み事をするなんて、よほどの事でないと…」
「安心しろ、なにがあっても唯は俺が守る」
「あ…」
「なんだ?」
「ふふ…かっこいいなぁと思いまして」
「なっ!?」
「おかげで安心できました」
「ぅ…」
「ふつつか者ではございますが、道中の護衛、よろしくお願いします」
「ん、こちらこそな」

…時は深夜。
ベランダには、静かに空を見上げている唯の姿があった。

「唯?なにをしているんだ?」
「…星を見ているんです」
「星?」
「星を見ていると…不安とか、悲しみとか、そういう気持ちを忘れられるんです」
「好きなんだな、星」
「はい」

なにをするわけでもなく、唯は静かに星空を見上げている。

「フレイさんもいかがですか?」
「…」
「フレイさん?」
「…ぐぅ」
「あ…疲れていたんですね」