起きんかこの馬鹿弟子!!!
「うわっ!?」

フレイはとっさに目を覚まし、身体を起こす。

「今日は朝からの修練じゃ。早々に起きぬと唯殿の手料理は抜きじゃぞ」
「ま、またそれか…脅しはやめてくれよ…」
「しつけの一環じゃよ。ほれ、さっさと起きんか!」
「わかったわかった…だから首根っこ掴まないでくれ…」

寝ぼけた重い身体でなんとか立ち上がり、居間へと向かう。

「おはようございます、フレイさん」
「ん、おはよう」
「朝ゴハン、お食べになってくださいね」
「すまないな」


…こんな平和な日々が続いていたある日。誰もが寝静まった深夜。


「フレイよ…」
「ん…?」
「目を覚ますのだ、フレイよ」
「…誰だ?」
「我が名は『炎命』、ガーディアンに仕える者也」
「炎命?炎命…炎命………炎命!?」
「警戒せよ。邪気が迫っている」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」

フレイは暗がりの中、枕もとのすぐそばに置いておいた魔剣を手探りで探し、手に取る。

「お前が俺に語りかけているのか?」
「無論だ」
「剣が…人間の言葉を喋るのか?」
「禅問答をしている暇はない。邪気が迫っているぞ」
「なんだ、邪気って?」
「悪しき心を持つ者達…我等は邪気と呼んでいる」
「ようするに敵が来たって事か?」
「少なからずガーディアンの敵である事は間違いない」
「なんだ、その…ガーなんとかって」
「問いなら後でいくらでも答える。今は邪気を退ける事に集中するのだ」
「わかった。敵はどこだ?」
「我は目覚めて間もない…邪気をうまく読み取れぬ」
「自分の目で探せ、か」

ダーゼンや唯が目覚めないように足音にも注意しつつ、外へ出る。

「敵はどこだ?…!」

何かの気配に気付いたフレイがふいに踵を返し、上に剣を構えて敵の攻撃を弾いた。

「気配に気付くとは…さすがだな」
「くっ…!誰だ、お前は!?」
「拙者は特殊情報捜査部隊『cage』のメンバー、黒影だ」
「cage?あの男の部隊の名前か?」
「ふ…要らぬ口が過ぎたようだな。大人しく『蒼の霊石』を渡せば命だけは助けてやる」
「蒼の霊石?ペンダントの事か?」
「お主、霊石の名を知らなかったのか?」
「ん…まぁ…。だが生憎とペンダントはここにはない。奪われて、俺も探してるトコだ」
「あくまで隠し通すというか。いいだろう。その度胸に免じ、苦しまずに殺してやる」
「おいおいおい、本当に持ってないんだってば」
「問答無用!覚悟めされい!」



「お前は…え~っと、黒影だっけ?」
「そ…それが…どうした…?」
「死ぬ前に2、3教えて欲しい事があるんだ」
「…?」
「なんの目的でペンダントを狙うのか。アンタらの組織『cage』とはなにか」
「他言は…無用だ…」
「そうか。じゃあしょうがないな、あきらめよう」
「あき…らめる…?問い質さないのか…?」
「今にも死にそうな人間にそこまでするほど俺は鬼じゃない」
「…訳の分からぬ男だ…」
「そりゃど~も」
「1つ…教えてやる…」
「ん?」
「『世界を滅せる強大な力を欲するならば、蒼の霊石を用いてヒーラーをガーデンへと導け』」
「なんだ?それ?」
「拙者にも…分からぬ…カイン様がおっしゃった…たった1つのお言葉だ…」
「カイン?誰だ、それは?」
「カイン…様は……………」
「…ダメ、か」

息絶えた黒影を林の中へ運び、地べたに寝かせ、枯葉で覆い隠した。
フレイがダーゼン宅に戻る途中、炎命に話しかける。

「おい、炎命」
「…」
「コラ、炎命。どうした?」
「…」
「反応なし…か。あれは夢だったのか…?」

フレイがダーゼン宅に戻ると、玄関で唯が不安そうな顔で辺りを探していた。

「あ、フレイさん!」
「唯?なにかあったのか?」
「目を覚ましたらフレイさんがいらっしゃらなかったので…なにかあったのではと…」
「すまなかったな。身体を動かしたくなって、少し訓練してたんだ」
「そうでしたか…」

唯が安堵の表情を浮かべる。

「そんなに心配していてくれたのか?」
「え?あ………その…」

途端に唯の顔が赤らむ。

「とにかく今日はもう寝よう。夜更かしは肌の大敵、だろ?」
「あ…」
「どうした?」
「ふふ…以前のフレイさんでしたら、そのような事はおっしゃりませんでしたよ」
「そうか?」
「はい」
「ん~…わからん…」