ピンポーン。
 フィリピン人と思しき女性たち、総勢五名様ご来店。
 入店早々一切合切聞き取れない言語でまくし立てるような会話が始まった。
 先頭の二人はケンカをしているような、あとの三人は笑いながらアレやらコレやらピスタチオやら話しまくっていた。
 こういう時、あぁ、日本語がもっと高速でスピーディでマッハであったらかっこいいのに、と思ってしまう。私は絶対に噛むから嫌だけど。
 ケンカ組は集団から少し離れ、お酒コーナーの前でまたケンカの如きマシンガンスピーチで喋り始めた。
 残り組の一人が、レジにぼけっと立っていた私に声をかける。
 「トイレ カリテモ イイデスカ」
 「あ、どうぞ~」
 わかっているとは思うけれど、一応トイレのある方に手を差し伸べながら言った。彼女はいかにも仕事柄っぽい仕草で振り向き、トイレに入っていった。
 残念ながら、私の挙動には艶だとか華麗さだとか、そんなものは微塵もない。人並みに女っぽくて、人並みに男っぽい。振り向きなんて普通にくるっと回ればいいだけなのに、どうして何故にプロの人たちはあぁも美しいのだろう。きっとドラえもんに道具を借りているに違いない!
 一人抜けた残り組はお菓子コーナーを物色しながら大声で会話していた。
 今、他に客はいない。
 外国語だけが飛び交う深夜の店内。
 なんか、異国のコンビニでバイトしているみたいで、寂しいな…。
 ケンカ組の一人が500mlのビール缶を二本、カウンターにゴトッといい音を立てて置いた。私が一本目を手に取り精算を始めると、それに気付いた残り組の二人が持っていたお菓子を慌ててカウンターに投げ置いた。どうやらおごってもらうつもりらしく、ビールさんは軽く呆れ顔をしつつも快諾したようだった。
 全ての精算を終え、また大声で話しながらビールさんら三人は店を出て行った。
 ケンカ組の片割れの女性はワンカップの焼酎とおつまみを購入し、静かに退店していった。
 …フゥ。
 遠田優、ただ今帰国し―
 「あれ?」
 一人、忘れているような…。
 トイレから出てきた女性は、店内に誰もいないことに気付いて慌ててお店を出て行った。
 あー。
 お金があったら、どこに旅行に行こうかな。
 …日帰り熱海でいいや。
 ニッポン万歳。