ピンポーン。
 三十代後半…なんだろうけれど、アイロンをかけずしわしわの服装のせいで四十代半ばに見えなくもない眼鏡の女性がご来店。
 女性は入店するなり立ち止まり、そこからピタリと動かない。
 そこが自動ドアのセンサーの範囲内だからドアが開きっぱなしで、落ち着かない。
 何か悩んでいるのだろうか、それにしたって何もそんな所で考え事をしなくてもいいのに。
 十秒ほど棒立ちしていた女性がいきなり口を開いた。
 「すいませぇ~ん」
 見た目通りの低めでうらぶれた声。お化けを演じても地声でいけそうなカンジ。
 「はい?」
 「おトイレ借りても、いいですかぁ~?」
 「あっ、どうぞ」
 ペタンペタン、とスリッパを鳴らすくたびれた歩き方で女性はお手洗いに向かった。
 喋り方といい、歩き方といい、なんかムズムズする…。
 少ししてお手洗いから出てきた女性は、店内を見回り始めた。
 気になる商品を探してウロウロするのは至って普通な行動だけれど、この女性、何か気になった物があるとものすごく、鼻がくっ付くくらい顔を近付けて食い入るように見る。
 眼鏡の意味がないと思う。
 たまに手に取って裏面や側面に書かれている内容表示を読んでいる。
 それはいいのだけれど、棚への戻し方がとても粗雑で、彼女の性格が垣間見える。
 直すのは私なんだから手間を増やさないでください…。
 アイスクリームコーナーでアイスを一つ取って、また店内を歩き回る女性。
 精算する直前に取ればいいのに、溶けてしまうことに気付かないのだろうか。
 それから三分くらい、同じ商品を何度も食い入るようにしながら見て回り、
 げっ。
 持っていたアイスをケースに戻した。
 なんてことを!
 これは明らかな営業妨害、器物損壊、えーと…。
 しかもよりによって氷菓!
 ラクトアイスならまだしも、氷菓って!
 バニラのようなミルク系のアイスであれば溶けても凍らせ直せばもしかしたら、なんてことも有り得らないでもないけれど、氷菓は凍らせ直したらただの味付き色付きの氷。
 アイスボックスじゃないんだから。
 でも注意すると何言われるかわからないし、この前の少年みたいに選ぶ権利云々言われるかもしれない。
 まぁいいか。
 気付きませんでしたって報告して、廃棄になった瞬間に私が食べよう。
 女性はまた少し店内を回った後、商品を一つ持ってレジにやってきた。
 カウンターに置かれた商品は、ウチの店で最も安い十円のチョコレート駄菓子。
 消費税すらかからない。
 狙っているのかな。
 「十円になります」
 支払い金額を伝えると、彼女は財布から一万円を出してカウンターに置いた。
 十円の買い物に一万円。
 おつりは9990円。
 勘定に最も手間のかかる金額です。
 はぁ…、めんどくさい。
 「あ~っ!」
 いきなり女性が私の目を見ながら、失礼にもズビッと人差し指で指した。
 「今、面倒くさいって思ったでしょ~!」
 …って言われるのもめんどくさいけれど。
 「いえ、そんなことは、」
 「嘘を言っちゃあ、いけないよぉ~? アタシだったら『十円、ありませんかぁ~?』って聞くしぃ~」
 余計なお世話だ。
 「…じゃあ、十円、ございますか?」
 「ありませぇ~ん」
 この…っ。
 「では一万円、お預かりします」
 パパッと精算しておつりの返却。
 「こちら大きい方から、一、二、三、四、五、六、七、八、九千円のお返しです」
 お札を先に返すのが通例となっている。
 それはいいのだけれど、枚数を確認しながらだなんて誰が決めたんだろう。
 怨めしい。
 残りの990円を返すため、引き出しから百円玉と十円玉を九枚取り出す。
 手が小銭臭くなってあんまり、
 「すいませぇ~ん」
 嫌な予感…。
 「追加したいんですけどぉ~」
 「あっ、どうぞ、構いませんよ」
 「お手数かけますぅ~」
 欠片も思っていないくせに。
 本当にそう思っているのなら、小銭を全て取り終えた瞬間に言うはずがないもの。
 女性はお弁当コーナーで食い入るように選んで、ミニ天ぷら弁当を持ってきた。
 「あたためますか?」
 「結構ですぅ~」
 持ち帰ってあたためるのかな。
 お弁当のおかげで枚数の減った小銭を取って、おつりとして返す。
 「ありがとうございましたぁ~」
 やっと帰った。
 疲れた…。
 居眠りでもしようかな。
 ピンポーン。
 嫌な予感…。
 「すいませぇ~ん」
 「はい?」
 「やっぱりぃ~、あたためてくださぁ~い」
 この…っ。
 しかもこの状況、前にもあったような…。