「フレイさん、朝ですよ。起きてください」
「…」
「フレイさん!」
「…」
「もぅ、仕方がありませんね。えぃ」
ふとんを剥ぎ取る唯。
「…」
「あぅ…起きない…」
「…」
「こうなったら…えぃ」
フレイの鼻をつまむ唯。
「むぐ…ふごっ…んぐぐぐぐ…な、なんだ?」
「お目覚めになられましたか?」
「は、は、鼻…てて、手、はなひてくりぇ」
「はい」
「ぷへぇ…な、なにすんだよぉ」
「起こしても起こしても反応がございませんでしたので、お鼻をつまんでございます」
「俺って…そんなに寝起き悪いのか?」
「はい、とても」
「…(なにも言い返せない)」
「朝食の用意ができていますので、冷めないうちにお召し上がりください」
「すまないな」
朝食をとり、準備を済ませ 出発。目指すは漁師の町イムカ。
「イムカへの行き方はわかるのか?」
「海岸沿いに歩いていけば辿り着けるはずです」
「なるほど、それが一番手っ取り早いな」
…
「フレイさん…」
「ん?」
「海の色…おかしくありませんか?」
「この色は…血!?」
「フレイさん…まさか…」
「あぁ、イムカに急ごう!」
…到着、イムカ。その町は見るも無惨な姿になっていた。
「ひどい…」
「誰が一体こんな事を…くそっ!」
「まだ息のある方がいるかもしれません。手分けして探しましょう」
「よし、わかった」
生存者を探して奔走していると、港の方から罵声が聞こえた。
「ぐぉあぁぁぁぁぁ!!」
(なんだ、あの声は?あいつがここを襲ったヤツか?)
フレイは港へと向かった。
「ここを襲ったのはお前か!?」
「ん~?なんだぁ?まだ生き残りがいやがったか」
港にはモンスターがいた。以前会ったモンスターよりも知能が高いようだ。
「答えろ!ここを襲ったのはお前か!?」
「トーゼンだ。こんな事ができるのはオレ様くらいだからなぁ」
「どうしてここを襲った!」
「こいつをカイン様に渡すためだ」
モンスターは手に持っていた物をぶら下げた。
「そ、それは…!?」
「がっはっは、これさえ持ち帰ればオレ様のランクも上がるってもんよ」
「ふ…ふざけるなっ!!」
フレイが斬りかかるが、モンスターの巨大な斧で軽々と弾かれた。
「ぐっ…!」
「オレ様に挑みかかるとはいい度胸だな。だが今はおこちゃまの相手をしてる時間はないんだ。じゃ~な」
「くそっ…ま…て…」
モンスターは海中へと去り、消えていった。
…
「ん…」
「フレイさん、お気づきになられましたか?」
「唯…?」
「大きな声が聞こえて港に向かったら、フレイさんが倒れていたので驚いてしまいました」
「治癒してくれたのか…すまない」
「なにかあったのですか?」
「…モンスターにペンダントを奪われた」
「え…?」
「あいつは、ペンダント1つのために町を壊滅させたんだ」
「…」
「俺は自分の未熟さを痛感した。今の俺は…唯を守り切れる自信がない」
「フレイさん…」
「そうだ。生存者はいたのか?」
顔を横に振る唯。
「…そうか」
「はい…」
「とにかくこの町から出よう。ここにいても仕方がない」
「そうですね…」
二人は後ろ髪を引かれるような思いで町を出た。
「ここから一番近い町がどこか、わかるか?」
「…」
「唯?」
「え?あ、ごめんなさい。なんでしょう?」
「ここから一番近い町、わかるか?」
「えっと…山岳地帯にあるヒートロックと、雪原地帯にあるアイスヴィクスンの2つです」
「どちらも同じ距離なのか?」
「全く同じというわけではありませんが ほぼ同じです」
「ここら一帯の地形を見ておいた方がいいな…よし、ヒートロックに行こう」
「ヒートロック…ですか?」
「どうかしたか?」
「い、いえ…別に…」
目的地、ヒートロック。鉱山のふもとに位置する鉱業が盛んな町。
ヒートロックを目指して山道を歩いていると、唯の歩行速度が落ちている事に気付くフレイ。
「唯?どうした?体調でも悪いのか?」
「だ、だいじょうぶです。先にヒートロックへ行ってください」
「そういうわけにはいかない。俺がいない間に唯が襲われたらどうするんだ」
「でも…」
「唯と同じスピードで歩く、それでいいだろ?」
「ごめんなさい…」
…数分後、唯の足取りが重くなっている。
「疲れたか?」
「いえ…平気です…」
(いや、疲れてるはずだ。俺に迷惑がかかると思ってムリに隠してるんだろう。気を遣ってあげないとな)
「あそこのひらけてるトコ、景色が良さそうだ。あそこで休憩しよう」
「わたしは大丈夫ですから、心配しないでください」
「俺が疲れてるんだ」
「え?」
「さ、休憩休憩。唯も休憩しないと体力がもたないぞ?」
「フレイさん…。ありがとうございます」
二人は腰を降ろし、しばしの休息をとる。
「唯。なんでそんな後ろにいるんだ?」
「そ…そうですか?」
「もっと前にくればいい。そこからだと景色がよく見えないだろ?」
「そそ、そ、そんな事はありませんよ。ここからでもちゃんと見えますから」
「ん~…」
フレイは立ち上がって唯に近づき、唯を抱き上げる。
「きゃ!ちょっ、フレイさん!?」
フレイは唯を抱き上げたまま歩き、自分が座っていた場所に唯を座らせる。
「どうだ?いい眺めだろ?」
「は…はい…」
「唯?」
「え…?」
「どうした?」
「ど…どうもしてませんよ…?」
「じゃあなんで涙目なんだ?」
「…あぅ~…」
「もしかして…高いトコ、苦手か?」
唯が弱々しく頷く。
「そうか…すまない、悪かった。やはりアイスヴィクスンに行こう」
「いえ…だいじょうぶです…」
「何言ってるんだ、涙が出るほどの高所恐怖症だってのに」
「足場が安定していて…下が見えない所なら…だいじょうぶです…」
「じゃあ、我慢できるか?」
「はい…」
「ん。さっさと切り上げてヒートロックへ行こう」
二人は再びヒートロックへと続く山道を歩き出した。