ピンポーン。
あ、この前のヨレヨレポロシャツくたびれジーンズこと不精 髭男(ぶしょう ひげお)さんだ。
ほぼ同じ格好で来るなんて、あれしか服持ってないんだろうか。
私をちらりと一瞥して、雑誌コーナーに直行。
今度はエロ本ですか…。
私が男だったとして、店員が女だったら視線が気になっておちおち読んでもいられないと思うんだけど…。
そういうのは気にしない人が増えてるみたいだし、まいっか。
平然とした表情で淡々と続けた立ち読みをやめ、髭男さんはレジにやってきた。
「あの」
「はい」
「ケータイ代、払いたいんですけど」
「あっ、はい、承ります」
ウチの店では携帯電話料金の支払い代行も扱っているので、口座引き落としにしていない人がたまにこうしてやってくる。
…私は、ケータイなんて高級嗜好品、持てない…。
髭男さんがカウンターに置いた明細書を受け取る。
ん?
1500円?
安っ。
友達は月にン万もケータイ代に費やしているらしく、きっと募金箱や賽銭箱に一万円を入れる人並に金銭感覚が狂っているのだ。
まぁ、さすがにそれは使い過ぎかもしれないけど、いくらなんでも安すぎると思う。
ケータイのことはよくわからないけれど、これっていわゆる基本料金のみなんじゃ…。
友達、いないのかな…。
仕事で使うこともないとなると、やっぱりニー太郎さん?
ケータイ持ってる意味あるんだろうか。
持っていない私が言うのもなんだけど。
あ、でもこの安さで済むのなら固定電話より安くていいかもしれない。
近頃の一人暮らしの人はそうしているらしいし。
私の部屋の電話は家賃に含まれているからアレだけど、そうか、固定電話じゃなくてケータイにすれば安くなるかも!
今度大家さんに相談してみよ~♪
…ダメだ。
無料の本体を買ったとしても、諸々の手数料を払う余裕がないや…。
しかも確か、固定電話ってやめるのにお金かかるんだっけ。
はぁ~…。
ぬか喜びっていうか、肩透かしっていうか。
髭男さんからお金を受け取り、手続きのため用紙に書き込みをしている間、髭男さんはぐるぐると店内を見回していた。
落ち着いて書けないんですけど…。
「あの」
「はい?」
「これ、買います」
髭男さんはすぐそばにあった板ガムを手に取り、カウンターに置いた。
なんていうか、間が悪い…。
普通、書き終わったところを見計らったりとかですね?
まぁいいや…。
「少々お待ちください」
ちゃっちゃと用紙を書き終えて、お客様控えを渡して、ガムの精算をして、髭男さんはお店を出て行った。
さて、そろそろ品出しでも―
ピンポーン。
白と緑のボーダー柄で…あれ?
「あの」
「はい?」
「―ガスと、水道の料金も払いたいんですけど」
こういう時、普通の人なら呆れたり、怒ったりするんだろうけど。
さすがにこの時は、ちょっとばかし笑ってしまった。