ピンポーン。
 金髪で色黒の男女四人組が、大きな声で喋りながら入店。
 どうしたら夜中にそんなハイテンションでいられるんだろう、と思うくらいうるさい。
 他に客はいないからいいけれど。
 正直、ちょっと眠くて…。
 「うっそマジィ~!? あいつぜってー借金しねーとか言ってたじゃん!」
 「ンなもんジョークに決まってンべ? だってあいつ『職業:自転車操業』だしな!」
 ぎゃはははは、と大笑い。
 お願いだから、お静かに…。
 「っつーか何買うよ?」
 「あっ、あたしブリトー食べたーい」
 「俺カルボナーラ!」
 「じゃあ俺ビーフストロガノフ!」
 「「「ねーよッ!!」」」
 ぎゃはははは。
 ビーフなんちゃらさえあれば、この人たちすぐに帰ってくれるのかな。
 こういう時、ビーフなんちゃらを仕入れといてくれないオーナーを恨む…のは筋違いかな。
 いわゆるギャル系の人たちは周りに合わせる傾向が強く没個性な人ばかりで、人間観察的にはおもしろくない。
 就職活動で東京に行った時は、人間観察のメッカだとワクワクしながら行ったものだけれど、実際は似通った人たちばかりで期待したほどではなく、とっても肩透かしを食らった覚えがある。
 周りと異なることをしたりして仲間外れになるのが怖い、というのはわからないでもないし、私もそうかもしれない。
 でも、私の場合は非日常的な生活の仕方がわからないので、異端児的な言動もできず必然的に周りと同じになっていたように思う。
 そう考えると、ヒューマンウォッチャー的に一番つまらないのは私なんだな、とちょっとしんみり。
 だから人間観察が好きなのだけれど。
 「ちょっ、お前勝手に酒入れんなよ!」
 「いーじゃーん、あたし来月誕生日だしー」
 「あっ、アタシ来年誕生日ー☆」
 「俺も俺も!」
 他の客がいても、今みたいにうるさいのかな。
 そしたら私、注意しなきゃいけないのだろうか。
 本音は、嫌。
 怖いし、ウザったいなんて思われたくないし、面倒くさいし、眠いし。
 でも、しなきゃいけないんだろうな。
 はぁ…。
 「は!? 割り勘だろ!?」
 「まーまーニィちゃんかてぇこと言うなってー♪」
 「そうだよー、この前BM買っちゃおうかなーとか言ってたじゃんッ」
 「ゴチになりまーす☆」
 あ、じゃあ私も誕生日が三ヵ月後に控えてるのでおごってください。
 高い物だと悪いので、軽でいいですよ、軽。
 …ガソリン代払えないし…。
 四人組の内の一人が大量に入ったカゴをカウンターに置いた。
 精算を始めると、他の三人がレジの周囲の商品をキョロキョロと見ている。
 「ねーねー肉まん買っていー?」
 「俺もアメリカンドッグ食いてぇ」
 「アタシおでんー☆」
 「オメーらあとで覚えとけよ! 領収書とっちゃーかんな!」
 書くの面倒くさいのでご遠慮ください!
 精算を終えると、四人組はワイワイガヤガヤと騒音を撒き散らしながらお店を出て行った。
 が、残念ながら四人とも、駐車場の車止めに座り込んでしまう。
 お願いだから早く帰って…。
 思いっきり居眠りしたい…。
 私一人しかいないのに【申し訳ございませんが隣のレジをご利用下さい】の札を立てて、寝たい…。
 「おいそれオレんだっつーの!」
 「いっただきまーす☆」
 「ヤベ、うっめぇ!」
 「ブリトーまずーい…」
 こんな時間に元気ですねぇ…。
 明日も平日だし、あんまりハメを外さなければいいのだけれど。
 なんて、人の心配をしている余裕はないか。
 はぁ…。
 二度もため息をつくなんて、疲れてるのかな…。
 レポート書かなきゃ…。
 眠いし…。
 …。
 あんな破天荒な人たちにだって、人生はあって。
 悩みだってあるし、今は仕事をしていなくても、いつかはしなければいけない。
 お気楽そうに騒いではいても、心の底ではそんな付き合いに疲れていたり、人間関係にまいっているかもしれない。
 楽しいままの人生でいられるなら、そうしていたいのは山々だけれど。
 少し道を外れてしまっても、若い内なら修正できるし、若い内にしかできない無茶もある。
 若いからってなんでも許されるわけではないけれど、今しかできないのなら、多少暴れたっていいじゃない。
 私には、そういうことができないから。
 彼ら彼女らのようにはなりたくないけれど、ちょっとだけ、一晩だけでいいから、彼らのような生活ができたら、何か…私の中で、変わるかな。
 別に、変わらなくてもいいか。
 眠いし…。
 あ、帰ってった。
 よし、寝よう。