ピンポーン。
うおっ!?
な、ななななな…なに!?
普通の中年のおじさんが、セーラー服でご来店。
あらゆる挙動がおじさん丸出しなのが違和感を一層引き立てていて、見るも無残な絶景が、目前に広がっている。
今、レジに立つ私の目の前を通り過ぎて行った。
うそっ!?
ハイソなカンジの香水の香りが…。
ちょっと、これは、マズイ…んじゃない?
警察に連絡した方がいいか。
いや、あまり騒ぎを大きくしてしまうのはお店としてもよろしくないし、平凡じゃないし、正直関わりたくない。
というか、ヒューマンウォッチャーとしてもさすがに怖いけれど、これほど強力なターゲットはそうそういないわけで。
よし…。
勇気を出して、観察しよう。
できるだけ、目を合わさないように…。
おじさんは、お弁当コーナーで幕の内弁当を取り、ドリンクコーナーでペットボトルの緑茶を取ってカウンターに置いた。
こ、これって…。
サラリーマンの食事?
私はてっきり、服装に合わせてサンドイッチとか紅茶とかを買っていくのかと思ったのに。
じゃあこの服装は一体なに!?
あぁもう興味出てきちゃった!
精算をしながら、欲望を抑え…切れなかった。
「あのー…」
「ん?」
「失礼ですけど、ご職業とか、お伺いしても…いいですか?」
「はぁ、商社の係長やっとりますが」
普通のことを普通じゃない人が普通に言っています。
「もっと失礼かもなんですけど、その、お召し物っていうのは…」
「趣味です」
「な…、なるほど」
あまりにも普通の会話過ぎて、目の前の絶景すら普通の出来事のように錯覚してしまいそうになるが、緊急事態であることを忘れてはならない。
「着ますか?」
「い、いえ、遠慮しておきますッ」
少なくとも、男の人が着たセーラー服なんて絶対に嫌!
普通に精算を終えて、おじさんは何食わぬ顔で退店した。
ヒューマンウォッチャー的にはおいしかったけれど、一度でいいや…。