ピンポーン。
杖を突いた、禿頭で腰曲がりのおじいちゃんがやってきた。
先日の『田口』のおじいちゃんかと思ったけど、よく見れば別人だった。
ご年配の方は誰も似ていて、見分けるのが難しい。
それを見分けるのは接客業として必要な能力であり、ヒューマンウォッチャーとして欠かせない能力でもある。
と言っても百貨店のように常連の顔を覚える必要がないコンビニのアルバイターには必ずしも必要な能力ではないから、後者の方が強いけれど。
例えば一卵性双生児だったら親や親密な人間にしか見分けられないだろうけれど、いくら一卵性といえど絶対に個性差はあるわけで、それを見分けられないようでは堂々と人間観察屋を語る資格はない。
堂々と宣言したことなんてないけれども。
そんな見分けのつきにくいおじいちゃんは、ゆっくりゆっくり、ほぼ摺り足で店内を巡り出した。
普通、特に目的の買い物もなく店内を回り出したのなら、必ずや気になる商品に一瞥なり手に取るなりするのが定石である。
しかしこのおじいちゃん、先ほどから店内の外周をゆっくりゆっくり歩いているだけで、どの商品に目もくれやしないのだ。
もしかしてウチの店、深夜徘徊のコースの一部になってしまったのだろうか。
などと考えていたらいつの間にかおじいちゃんは店内一周を終え、
退店していった。
私も今度、スーパーで堂々とひやかしをしてやりたいと思った。